堕落


 結論からいうと、EUの恩恵から疎外された多くの人々の根底には、中産階級(特に上部中産階級=upper middle class)への不信があるのではないか。中産階級の彼らは大企業や銀行の要職についていたり、弁護士・医師といった専門職をもち、あるいは終身雇用の安定した生活を享受して、国境を越えて活動しEUの恩恵を最も享受している。

 経済的活動だけではない。右翼・左翼をとわず政治の運営をになっている政治家の多くがこうした一部の社会階層出身である。そしてリーマンショック後の経済悪化によっても、舵取りを失敗した当の本人たちが政治経済の場から交代することなく同じように安定した立場を独占している。

 一方でこうした経済的余裕のある人々が、その社会的立場にみあう社会への責務(ノブレス・オブリージュ)があることをすっかり忘れ、自分たちの財産を増やすための投資や子供達への教育といった自分の個人的な経済問題で頭がいっぱいなようだ。この堕落が人々の不信につながっているのではないか。そして主流派の政治家とEU関係者がこういう人ばかりになり、広い庶民の意見を代弁する政党がなくなっているということが、既存の主要政党への支持が崩れていることの背景にあろう。だから、これは政党の問題というより、社会的な問題である。

表現型


 こうした社会の変化の結果としての表現型は国によって様々である。ハンガリーは極右が圧倒的に勢力を伸ばした典型的な国であり、ロンドン在住のピアニスト、アンドラシュ・シフは匿名の極右の人々にネットで脅迫されているため自国ハンガリーに帰国することを避けているという。

 オーストリアでは最近の大統領選では極右候補ノルベルト・ホーファが勝利に近づいたもののごく0.6%の僅差で敗退した。

 翻って見て日本において同様の問題は存在するだろうか。

 欧州でEUに恩恵を被っているような中産階級は、日本でいえば安定した正規雇用にあり、しばしば海外出張を行うような人々がほぼ相当するであろうか。こうした人々の生きざまと、いまの日本社会を広く覆う病巣とのあいだになんらかの関係はないだろうか。自分自身のことは意外に理解しにくいものであるが、同時代の欧州の困難から学べることがあるかもしれない。