英国が中国と結びつきを強めるワケ

 人民元国際化の第一歩は、このロンドン市場での元建て短期国債の発行といえます。英国といえば、米国と歴史的な関係が深いかつての覇権国家です。

 その米国が、AIIBへの参加見送りの要請をしたのに英国は参加。習近平国家主席の訪米では歓迎ムードもそこそこだったのに、訪英では王室と会食するなど、国を挙げた歓迎をしています。

 英国の中国戦略が米国とは真逆ベクトルにあるとさえ感じられるほどです。その理由には、アジアや日米では、中国の経済プレゼンスの高まりを警戒する視点が強いですが、「欧州は中国との間で地政学的な問題を抱えていない、中国の経済力を冷静に見れば、それに乗らないという選択肢はない」(ニッセイ基礎研究所 伊藤さゆり氏)からという見方があります。

 米国経済のかげり。国際会議のパワーがG7からG20へと移行されたことで、米英のつながりが希薄化したこと。シリア制裁の足並みの乱れなどオバマ政権以降、英米関係のぎくしゃくは続いています。

「英国にとってもはや米国との関係は特別という状況ではなくなっています。また英連邦のつながりも希薄化しているし、EU内でもユーロを導入していない、17年末までに実施される国民投票の結果次第でEU離脱の可能性もあるなど、英国の外交関係が変わりつつあります。その状況では、国際関係をテコに自国の利益を拡大させるためには、経済大国となった中国との関係を深めるのが必要不可欠だったのだと思います」

 しかしその期待したい中国の成長も日本では、失速するなどネガティブな報道が多く見られています。言い換えれば、落ち目の中国とこれから結びつきを強める意味はどこにあるのかということにもなるでしょう。

英伝統のパブでビールを楽しむ習近平国家主席(左)とキャメロン英首相。急速な中国傾斜には疑問の声が出ている=2015年10月22日、イギリス
英伝統のパブでビールを楽しむ習近平国家主席(左)とキャメロン英首相。急速な中国傾斜には疑問の声が出ている=2015年10月22日、イギリス
アジアからでは「気づかない」視点

「中国がいろいろな問題を抱えているのは英国も承知しています。しかし、急失速するという認識ではないでしょう。これまでのような高成長はなくても、それでも欧州よりも高い成長力が持続すると見ていると思います。そしてなにより、日本は中国を“世界の工場”、つまり安価かつ豊富な労働力を利用した輸出拠点としてみてきたので、その勢いの衰えを感じていますが、英国やドイツにとっては、輸出拠点としての意味合いは薄く、むしろ膨大な人口を背景に、輸出先――消費地としての将来性に期待をしているのです」

 昨年3月に習近平国家主席が訪独し、今年の6月には李克強首相がフランスを訪れていますが、欧州各国は中国の成長市場を取り入れたいし、中国は欧州とのつながりを強化して、人民元の国際化、米国との連携にくさびに打ち込むなどの思惑があるといえるでしょう。

「人権問題や民主化という欧州が従来重視してきた価値観をいったん棚上げするような形で、経済大国となり、構造転換を目指す中国の成長を取り込もうという欧州の戦略が、狙い通りの効果を挙げることができるのか、今の段階では判断できません。とはいえ、欧州が、中国の経済力と今後の成長性を高く評価し、積極的に関係を深めようとしている現実を認識しておくことは大切だと思います」

 欧州と同じように中国の利益“だけ”に上手に乗ることは、アジア圏ではなかなか難しいでしょう。しかし、アジアとは違う視点で中国を見ている欧州という地域があるという理解があれば、世界情勢を複眼的に見ることができるではないでしょうか。