「なぜ、中国が軍備増強に熱を上げ、挑発的な態度をとるのか、理解できない」

 確かにそうかもしれない。しかし、その疑問こそが、現在の中国を読み解く鍵になる。なぜなら、現在の中国指導部は、実力の不足を認識しながらも、その認識を国内外に示すことが出来ず、一種の「強がり」とも言える態度を示さなければならないからだ。その原因は、中国社会の不安定化にある。

 中国は、高度経済成長の段階から、安定経済成長の段階に移行しなければならない情況にある。しかし、タイミングが早すぎた。まだ、多くの国民が豊かになる前に、高度経済成長が終わろうとしているからだ。現段階で経済成長が過度に鈍化すれば、貧しい者が豊かになる機会を失われて格差が固定され、あるいはさらに拡大する。

シンガポールで5月19日に開幕した海上防衛関連国際展示会に参加した、中国のミサイルフリゲート艦「玉林」
シンガポールでの海上防衛関連国際展示会
に参加した、中国のミサイルフリゲート艦「玉林」
 経済成長の減速は、中国国民の目にも明らかだ。妬みの眼差しで金持ちを見ながら、自分には豊かになる望みがないと思えば、大衆は、現指導部やその統治に不満を募らせる。権威主義国家では、暴力以外に、この不満を政策に反映させる方法がない。

 現在の中国指導部は、中国国民に「偉大な中華民族の復興」という「中国の夢」を信じさせなければならない。経済発展とともに軍事力を増強してきた中国は、「これからは、米国と中国という二大国が、中国にとって公平な世界秩序を決定していく」ことを、身をもって示さなくてはならないのだ。

 一方で、中国は、米国が「中国の世界秩序への挑戦」を妨害すると考えている。また、戦争になれば米国に勝利できないことも理解されている。「弱い」からこそ、力こぶを見せて威嚇し、ときには、こぶしを振り回さなければならない。しかし問題は、中国が「弱い」のは、米国やロシアに対してであって、他の周辺諸国にとってみれば中国はすでに「強大」であることだ。その「強大」な中国がこぶしを振り回せば、周辺諸国は実害を被ることになる。

 そして、米国は「中国の世界秩序への挑戦」に懸念を抱き始めた。中国が米国を威嚇してこぶしを振り回す、すなわち軍事力を使うからだ。しかも、実際に米国に損害を与えている。それも、米国が許容できない部分で、である。

 本書では、中国が軍事力を用いて何をしたいのか、その軍事力はどの程度のものなのか、そして、日本および米国、さらには国際社会がどのように中国の行動に対処していくのかを考えてみたい。


おはら・ぼんじ 東京財団研究員・政策プロデューサー。1985年3月、防衛大学校卒(29期)。筑波大学大学院修士課程修了、修士論文「中国の独立自主外交」。海上自衛隊第101飛行隊長(回転翼)、2003年3月~2006年4月、駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊副長~司令(回転翼)、防衛研究所研究部などを経て退官。2011年3月、IHS Jane's 入社。アナリスト兼ビジネス・デベロップメント・マネージャーを務め、2013年から現職。中国通の軍事アナリストとしてテレビ出演も多数。著書に『中国の軍事戦略』(東洋経済新報社)がある。