習近平は中国皇帝のイメージを演出した


 中国が、国民と国際社会に見せたいのは、国際社会を主導する正当な権利とその能力を有する中国の姿なのだ。軍事パレード当日の朝、パレードの観閲に訪れた各国首脳を出迎える習近平夫妻の姿も、中国国内でテレビ放映された。その姿は、まるで、朝貢を受ける皇帝のようであった。

 場所は、天安門から故宮の午門(ごもん)へ向かう通りである。天安門から故宮に向かって赤いカーペットが敷かれ、その端に習近平夫妻が立つ。各国首脳は、一人(夫妻の場合は夫妻一組)ずつ、赤いカーペットを習近平夫妻の下に歩いていく。習近平夫妻と握手をした後、習近平夫妻の隣に立って写真撮影をする。その後、習近平に促されて、その場を離れ、控室に向かう。習近平夫妻はその場に残り、次の首脳が挨拶に歩いて来るのを待つ。

 故宮を背にして各国首脳一人一人の挨拶を受ける習近平の姿は、中国国民の目にはどう映っただろうか? まさに、中国王朝の皇帝ではないだろうか。世界の中心にある中国を率いている皇帝のイメージである。習近平は、中国の、世界の中における位置づけを、国民に印象づけようとしたのだ。中国中央電視台は、ご丁寧にも、天安門の下で、習近平夫妻への挨拶を待って列を作る各国首脳の様子まで映し出していた。

 ところで、このとき、韓国の朴槿恵(パククネ)大統領は、黄色い洋服を着て挨拶に訪れた。これには驚かされた。なぜなら黄色という色は、紫禁城を宮廷とした清朝では、皇帝だけが用いることができる色だからだ。日本には、「朴槿恵大統領はそんなことも知らないのか」と批判する人もいたが、朴槿恵大統領は、もちろん知らなかったはずはあるまい。わかっていて、わざとやったのだ。ただでさえ批判の多かった訪中で、中国に朝貢するような姿を見せては、韓国大統領としては立つ瀬がない。皇帝のみが着ることが許されていた黄色の洋服を着ることによって、中国皇帝に朝貢に来た蛮族の長ではない、ということを示そうとしたのだ。朴槿恵大統領の抵抗である。
記念行事に臨む(左から)プーチン大統領、習近平国家主席、朴槿恵大統領=2015年9月、北京(新華社=共同)
記念行事に臨む(左から)プーチン大統領、習近平国家主席、朴槿恵大統領=2015年9月、北京(新華社=共同)
 朴槿恵大統領は、これ以外にも、同様の抵抗を見せている。例えば、習近平が各国首脳を導いて天安門の階段を上る際、朴槿恵が、一人だけ習近平の左前を颯爽と上る姿が、テレビ画面に映し出された。また、軍事パレードの最中、習近平、ロシアのプーチン大統領他、各国首脳等が立ち上がっていたにもかかわらず、一人だけ、サングラスをかけて座ったままだった。朴槿恵は、中国の手下ではないことを示そうと、苦労していたのである。

 もう一つ、この挨拶の状況を途中まで見ていて心配したのは、プーチンが怒らないだろうか、ということだった。常に中国を目下に見るロシアは、中国に朝貢させられるような振る舞いは許さないだろうと思ったからだ。ところが、習近平は、そのことはしっかり考えていた。プーチンの登場は、最後だったのである。プーチンは、列を作って待ったりはしなかっただろう。プーチンも、赤いカーペットを歩いて習近平夫妻に挨拶して記念撮影をしたが、そこからが他国の首脳とは違った。習近平夫妻は、プーチン大統領と並んで、談笑しながら一緒に控室に向かったのである。談笑しながら歩くというのは、対等な関係であることを示すばかりでなく、二人が良い関係であることを示すことにもなる。プーチンの顔を立てつつ、中露の良好な関係もアピールしたのだ。潘基文国連事務総長に対して何の配慮もなかったのとは対照的である。誰の目にも、潘基文は、ただ、習近平に摺(す)り寄っただけに見えただろう。