中国は対米軍事力を誇示すると同時に平和を言う必要があった


 ところで、この軍事パレードに矛盾を感じるのは、習近平が、軍事力を誇示しておきながら、平和を強調しているからである。この矛盾は、中国指導部が、異なるメッセージを軍事パレードに込めたから生じたものだ。習近平指導部が中国の軍事力を誇示したかったのは、実は中国国民に対してである。

 軍事パレードは、中国国内に向けて、中国が第二次世界大戦の勝者であり、国際社会を主導する資格と権利があり、今や中国にはその能力があると示す場だったからである。中国国民に、中国の経済発展を信じさせ、社会を安定させるためだ。「これから中国が発展する番なのだ」というイメージを国民に与えることが重要だったのである。

 また、中国が米国の軍事力を意識した兵器を披露したのは、今後、国際社会のルールを決めていくのは米中両大国であると示したかったからだ。しかし、中国が米国との戦争に勝利できない以上、本当に軍事衝突するわけにはいかない。国際社会、特に米国に対しては、中国が平和の支持者であると示す必要もあったのである。

 中国は、米国が中国の発展を妨害するのではないかと恐れている。その手段には、軍事力も含まれる。近年、中国が主張している米中「新型大国関係」は、極端に言えば、中国が自由に国益を追求しても、米国が軍事力を行使しない関係である。

 中国は、米国との軍事衝突は何としても避けたい。なぜなら勝てないからだ。中国は、米国が中国に対して軍事力を行使しないぎりぎりの落としどころを探りながら、国際ルールを変えていこうとしているのだとも言える。

 しかし、当の米中関係は、中国の思いどおりに進展している訳ではない。2015年5月20日に、米国が、中国の南シナ海における人工島建設の状況をCNNに報道させたのは、中国が力を以て国際規範を変えようとしていることを、世界に知らしめるためだ。

 米海軍が監視飛行を繰り返しても、米国と水面下で決着できると考えていた中国にとっては衝撃だっただろう。米中間の問題ではなく、中国が国際社会に挑戦するという構図になったからだ。米国および周辺各国との対立の構図が鮮明になる中で、中国はその軍事力を誇示することになってしまった。

 不安定化した中国社会を安定させ、共産党に対する求心力を高めるために、軍事パレードは必要なイベントだった。しかし、中国の平和的な台頭を信じられない各国は、ますます警戒感を高める結果になってしまった。

 習近平訪米を控えたこの時点で、米国から種々の問題について非難され、対立ばかりがクローズアップされることは、中国にとって好ましい状況ではなかった。中国は、現在の国際社会に対抗する新しい政治・経済ブロックを構築しようとしている訳ではないのだ。中国は、現在の国際社会のルールを変えたいのである。そのためには、国際社会から孤立する訳にはいかない。