そうした状況の下で、中国が、平和の支持者であると主張できるのは、日中関係の改善くらいしかない。中国では、8月14日に発表された「安倍談話」は極めて不評であった。それでも、非難を抑制したのは、日中関係の改善を期待したからだ。

 中国の報道を見れば、9月3日の安倍首相の訪中に期待していたのは明らかである。抗日戦勝記念式典が開催されているさなかに安倍首相と習主席の首脳会談が実現していれば、習近平が訪米した際にも、東アジアの安定に寄与していると主張することが出来ただろう。
70年談話を発表し、記者会見する安倍晋三首相=2015年8月
70年談話を発表し、記者会見する安倍晋三首相=2015年8月
 しかし、安倍首相の訪中は中止された。中国は、減速する経済を再浮揚させるためにも日本との関係改善が不可欠であったが、外交面でも大きなダメージである。

 日本政府には、安保法案の国会審議等、安倍首相が日本を離れられない理由があった。しかし、日中関係は、日中二国間だけの問題ではない。

 中国と韓国は、軍事パレードに先立って行われた中韓首脳会談において、日中韓首脳会談の開催を決定した。韓国側から提案したと言われるが、中国が日中韓首脳会談に賛成したのは、自らが北東アジアの平和のために努力していると主張したいためだ。

 また、日中関係には、米国も関わってくる。さらに、もう一国、注目しなければならない国がある。米中二極に対抗して、第三極として生き残るゲームをアジアで展開しようとするロシアだ。

 現在の日本と中国は、ロシアにとって扱いやすい。日中間がほぼ断絶状態だからだ。イランの核開発問題で存在感を見せたロシアに対して、米国は態度を軟化させたと言われる。こうした状況が、ロシアにとって日本の利用価値を下げさせた。

 北方四島返還の議論のテーブルにロシアを着かせるためには、ロシアに、日本が必要だと認識させなければならない。日中が種々の問題について直接協議できるようになれば、中ロ関係にも影響を及ぼし、日本のロシアに対するオプションが増えるかも知れない。日本は、中国との関係を考える際にも、米国やロシアといった他の大国の意図を見ながら難しいかじ取りを迫られる。中国だけに目を奪われれば、さらに大きな盤でゲームを試みる他の大国に、駒扱いされることになりかねないということである。


中国の軍事力は何のためにあるのか


 中国人民解放軍が米国に対処する能力を見せようとしつつ、実際には米国との軍事衝突を避けたいと考えているならば、中国の軍事力は何のために存在しているのだろうか?

 その理由は、2012年末以降、習近平が、「戦えるようになれ、勝てる戦いをしろ」と人民解放軍に檄を飛ばしていることからも理解できる。習近平の戦闘準備の指示は、他国との戦争を企図したものではない。他国と戦争できる能力を身につけろと言っているのだ。裏を返せば、現在の中国人民解放軍は、他国と戦える状態にはないということだ。