「二枚舌外交」はいつまで続くか


――ご専門である外交戦略についてお聞きします。2016年1月6日、北朝鮮が4回目の地下核実験(北朝鮮は水爆実験と主張)を強行しました。また、南シナ海の領有権問題をめぐり中国が強硬な姿勢を緩める気配は見えず、アジアの海洋権益をめぐる紛争・対立は激しさを増しています。

 緊張度が高まる東アジアの地域安全保障面におけるアメリカの役割はいっそう重要になっていくと思われます。ここ数年、オバマ大統領の日韓の歩み寄りを促す姿勢をどう考えていますか。

ユー いまや中国の軍事力は自国でコントロールできないほどにまで肥大化しました。アメリカが最も警戒するのは、海外諸国を自国の都合に合わせようとする中国の覇権に韓国がなびくことです。

 昨年10月、ヘーゲル国防長官と韓民求国防相は2015年12月に予定していた在韓米軍の撤退(韓国軍への戦時作戦統制権移譲)を再び延期することを決めました。また、韓国がアメリカとFTA(自由貿易協定)を結んでいる点からも、米韓関係が崩れることは当面考えられません。

――中国が南シナ海で人工島を軍事拠点化する横暴に対する韓国の反応はどんなものでしょうか。

ユー その点は、韓国政府もけっして一枚岩ではありません。朴槿惠大統領を中心に閣僚の多くは中国に肯定的な姿勢を見せていますが、実務レベルでは納得していない者もいます。昨年11月4日にマレーシアで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)拡大国防相会議では、韓民求国防相が「南シナ海では航行の自由が保障されるべきだ」と明言しました。国防相の発言が政府の本音だとわかっていながら、朴大統領は建前上、中国を否定することはできないのです。

――なぜ、朴大統領は中国との関係をそこまで重視するのでしょう。

ユー 1つには、経済的な理由です。韓国は中国に依存しながら経済活動を維持しています。昨年11月26日の米『フォーブス』誌が発表した「中国依存度が高いランキング」によれば、GDP(国内総生産)に占める対中輸出の割合で韓国は1位の11%でした(台湾を除く)。ちなみに日本はたったの3%、アメリカは1%にも満たないのです。

 また昨年10—12月期の韓国の対中貿易額を見ると、初めて日本の対中貿易額を上回り、アメリカに次いで2位に躍り出ました。昨年12月に韓中間のFTAが発効し、両国間の貿易がいっそう拡大すると見込まれれば、今年からは年間ベースでも対中貿易額で日本を上回るのではないでしょうか。このような経済的に相互依存関係にある中国の意向を、韓国は無視することができません。

 もう1つの理由は、朴槿惠大統領の個人的な「思い出」です。朴大統領がまだ若いころ、父親である朴正熙元大統領が暗殺されました。そのあと約20年ものあいだ、彼女はKBS(韓国放送公社)の中国語講座を見て中国語を勉強したそうです。

――10年以上かけて130編、52万6500字の『史記』を書き綴った前漢の司馬遷のようですね。失意のどん底で、慰めに近い行為だったのでしょう。

ユー 朴大統領の過ごした20年というのは、ちょうど鄧小平によって改革開放政策が敷かれ、中国が国際的地位を高めていた時期と重なります。市場経済へと移行し、急成長を遂げた中国の姿を目の当たりにした経験から個人的感情が先立ち、大統領になった瞬間に親中に傾いていったのかもしれません。