『キューポラ』で父親にぶつけた科白の皮肉


2001年12月、映画「千年の恋 ひかる源氏物語」で共演した
吉永小百合(右)と渡辺謙
 例へば渡辺謙さんが安保法制騒ぎの最中の八月一日にかうツイートしてゐる。「ひとりも兵士が戦死しないで七十年を過ごしてきたこの国(憲法)は、世界に誇れると思う。戦争はしないんだ」と。

 或いは笑福亭鶴瓶さんも、八月八日の東海テレビで「あの法律も含め、今の政府がああいう方向に行つてしまふつていふのは止めないと絶対だめ」と発言し、対談相手の樹木希林さんが「七十年も戦争しないで済んだのは憲法九条があるから」と応じてゐます。

 竹下景子さんも、安保法案反対アピールに名前を連ね、「日本が戦争する国になれば、被害者であると同時に加害者にもならざるを得ません」

 七十年間日本人の戦死者がなかつたのは、世界に戦争がなかつたからでも、日本への過酷な脅威がなかつたからでもありません。拉致被害者は厳然と存在しますし、そもそも、憲法九条といふ紙切れ一つで地球の中で日本だけが特殊な楽園であり続けられるかどうか、この人達は一度でも考へた事があるのでせうか。

 この七十年の内の前半、東西冷戦時代には、朝鮮戦争、ベトナム戦争、核の軍拡競争、共産主義国家による恐怖政治がありました。隣にはソ連、共産中国がゐて、内政による弾圧や失政の為の犠牲者は数千万人と言はれてゐる。その軍事的脅威を憲法といふ紙切れ一枚で防げたとこの人達は本当に思つてゐるのでせうか。冷戦が終つた後、欧米知識人達の一部は自由主義陣営が勝利した結果、世界は平和になるといふ幻想を持ちました。が、アメリカが世界の警察官を務める中で、中東の動揺は全く去らず、オバマ時代に入り、今度はアメリカが警察官の仕事から手を引き始めた途端、中国、ロシアなどの軍事国家が世界秩序の変更に向けてチャレンジを始めた。

 冷戦時代の我が国を守つてゐたのはアメリカです。アメリカにとつて日本こそが共産主義勢力からの防波堤だつたからなのは言ふまでもありません。

 が、かつてのソ連と違ひ、アメリカにとつて、今の中国共産党政権は駆引きの相手であり、日本はアメリカの死活的な防衛ラインではなくなりつつあります。中国と手を組んだ方がよければアメリカはさうするでせう。その時、憲法といふ紙切れ一枚で日本の「平和」を守り切れる根拠はどこにあるのでせう。

 「平和」が大切だといふ声を挙げる事と、特定の法案に反対する事は全く意味が違ひます。

 法案に反対するのであれば、その法案が本当に平和を脅かす根拠と、新たな立法措置を取らずとも我が国の平和が守られ続けるといふ根拠を持たねばならない。これは、俳優とか知名人とかいふ事以前に、人としてのイロハではないでせうか。