「社会派」としてのスタンス


 吉永小百合の代表作と言えば、石坂洋次郎作品や大ヒットした『愛と死をみつめて』(1964)とともに、『キューポラのある街』(1962)をあげる人が多い。
『キューポラのある街』は、早船ちよの原作をもとに、後にカンヌ国際映画祭で最高賞を二度受賞した今村昌平と、この映画で監督デビューを果たした浦山桐郎が脚色した映画で、「鋳物の街」であった埼玉県川口市を舞台に、町工場に勤める職人家族をめぐるさまざまなエピソードをつづった社会派映画である。

「天国の駅」(C)東映
「天国の駅」(C)東映
 題材としては、労働問題、貧困、民族問題などシリアスなテーマが多く、「清純派」吉永小百合のイメージからすると暗い映画であり、実際、社会派の浦山監督は吉永小百合のキャスティングには、当初違和感を覚えていたということだが、興行的要請から、人気絶頂の彼女を起用せざるを得なかったと言う。

 しかし吉永は、監督からの「貧乏について考えてごらん」という課題をまじめに受け止め、結果として彼女の演技は、わが国では歴史ある映画賞のブルーリボン主演女優賞を獲得するなど高く評価され、同じく作品自体もブルーリボン作品賞を受賞した。

 今で言うなら、AKB48などの人気絶頂のアイドルが、こうした重いテーマの映画やドラマに出演するのは、作り手サイドからもファンサイドからも抵抗が多いだろうが、当時は、若者を中心に、社会的な問題意識や批判意識を持つことがむしろ当たり前であり、実生活においても「まじめ」な吉永小百合が、真摯(しんし)に重いテーマと向き合った姿勢は、ファンからも受け入れられたのである。その意味で、彼女は「永遠の清純派」と言われながらも、浮世離れした世界に生きているわけではなく、今でも「脱原発」などの政治的な発言をしているが、それも自然と許容されている。そこには、戦後に新しい国や社会のあり方を模索してきた世代ゆえの、時に愚直なまでの「まじめな」民主主義精神を読み取ることができる。
(2012年11月26日記)


稲増 龍夫  1952年東京生まれ。法政大学社会学部教授。東京大学文学部社会学科卒、東京大学大学院社会学研究科修士課程修了。東京大学文学部助手を経て1984年より現職。本来の専門はポストモダン社会論だが、特にアイドル、J-POP、おたくなど現代のメディア文化やサブカルチャーの研究と解説で精力的に活動。