日ごろからメディアの取材に積極的に応じ、自説の「日本人に特有のワクチン脳障害」という仮説を披露して、独り歩きしている不正確な情報を訂正する気がないことが窺える。

 例えば日本テレビは、「ワクチンの接種前に検査を行い、この遺伝子がある人は接種しないといった予防法の開発にもつながるという」とまで報じている。前篇で説明したとおり、これは間違った統計解釈に基づく間違った判断であり、極めて危険なメッセージである。「という」との表現からは、池田班からのコメント提供が推測されるが、もしそうだとしたら重大な問題だ。

 今回の分析に協力してくれた京都大学大学院医学研究科附属ゲノム医学センターの松田文彦教授は、「通常、極めて稀な副反応が、頻度の高い遺伝子型のみで説明できるということはありえない。ワクチン接種を受けて何の症状もない大多数の残り何百万人の人たちを説明できませんよね」と語る。

 仮にも国立大学の教授であり、医学部長でもある池田氏が、遺伝子の保有率と頻度を本当に混同しているとすれば、大学で医学生を教育する資格が問われる。

 一方、池田教授が保有率と頻度を意図的に混同し、メディアの目をごまかして自説に有利な誤情報を流そうと考えていたのだとしたら悪質と言わざるを得ない。さらに、それが誤った解釈であることが明るみに出た場合でもメディアのせいにできると考えていたのだとしたら、科学者としての資質も問われる。3年目になる子宮頸がんワクチン副反応に関連する研究費はすでに総額2470万円(記事末尾注記参照)にのぼっているが、これだけの税金をかけた厚労省班研究の班長の資格も問われることになろう。

 当初、池田教授は、「ワクチンが原因で脳に異常が起きた」とする「ハンス(HANS=子宮頸がんワクチン神経免疫関連症候群)派」の中では、誠実に事実を探求し、科学を受け入れる姿勢をもつ「良心」であると考えられていた。関係者の間では、池田教授が膠着した子宮頸がんワクチン副反応問題を解決する鍵となってくれるとの期待感があった。

 今回の成果発表会について池田教授は「有意義な意見交換が行われ、歩み寄りできた」と評したというが、研究者たちの間では、池田教授がこのようなセンシティブな問題に関し、生煮えのデータを誤った解釈に基づいて公表したことへの無責任さを嘆く声が絶えない。出されたデータを検討し、慎重に世に伝えるという科学報道の基本を怠っていたメディアは、一刻も早く訂正報道を行い、池田教授の責任を追及してほしい。

(注)池田班の研究費は、2015年度450万円(子宮頸がんワクチン接種後の神経障害に関する治療法の確立と情報提供についての研究)、14年度690万円(自律神経障害性疼痛の診断基準作成と新規治療法を開発するための研究)、13年度1330万円(難治性神経因性疼痛の基礎疾患の解明と診断・治療精度を向上させるための研究)で、合計2470万円。13年度は途中で子宮頸がんワクチンの研究が追加されたため1330万円すべてが子宮頸がんワクチンの接種後症状に費やされたわけではないが、15年度は研究課題名にあるとおり対象は子宮頸がんワクチンのみ、14年度は実質的に内容が子宮頸がんワクチンに集中しており、450万円と690万円の合計額である1140万円を超えることは確実とみられる(厚生労働科学研究成果データベースより)。

むらなか・りこ 医師・ジャーナリスト。東京都出身。一橋大学社会学部・大学院卒、社会学修士。その後、北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、医療・科学ものを中心に執筆中。京都大学大学院医学研究科非常勤講師も務める。