朝日新聞の当時(2015年7月11日)の報道によれば、安保法制が憲法違反にあたるか、という問いに対して、回答を得た憲法学者の答えは、おおよそ次の三つにわかれた。憲法違反が104名(報道ステーションでは127人)、違反の疑いがあるが15名(同12人)、また違反の疑いはないが2人(同3人)である。

 このアンケートは一人歩きを始めて、いまも「憲法学者の圧倒多数が違憲といっているので安保法制は違憲だ」というものとして利用されている。つまり専門家たる憲法学者の圧倒多数がいうことが「正しい」という見方だろう。これを学術的に支持するような意見も目にする。

 最近、坂井豊貴・慶應大学教授の新著『「決め方」の経済学』(ダイヤモンド社)を読んだ。坂井教授は『多数決を疑う』(岩波新書)で、新書大賞の上位にランクするなど新進気鋭の論客としても注目されている。筆者も坂井教授の『社会的選択理論への招待』(日本評論社)は名著だと評価している。

 坂井教授は「多数決で正しい判断ができる確率」がどのくらいなのか、を問題にしている。これは「コンドルセの陪審定理」というものとして知られている。いくつかの前提が必要なのだが、坂井教授は安保法制が違憲か違憲ではないのかを、専門家たる憲法学者に聞くことこそがこの陪審定理の恰好の素材と考えている。

 陪審定理を利用して、憲法学者の多数(上記のアンケートでは安保法制違憲派)がどのくらい「正しい」のか確率でわかるのだ。

 報道ステーションの方の結果を利用した坂井教授の計算によれば、安保法制が違憲だと考える人たち(上記の127名)が、正しい意見であるという確率はなんと99%以上になる。

 坂井教授の言葉を借りると、「安保法制は違憲の疑いが高いというよりも、純粋な違憲である」(『「決め方」の経済学』、160頁)となる。これは単に「多数決がいつも正しい」という次元のものとは違うことを指摘しておきたい。科学的な論証なのだ。

 だが、筆者は坂井教授のこの計算は正しくないと思う。正しくないというのが言い過ぎならば、注意が足りないと指摘したい。

 報道ステーションのアンケートには、調査対象になった憲法学者が、そもそも自衛隊を違憲と考えているかという質問項目がなかった。だが他方で、朝日新聞のアンケート結果では(当時、紙面にこの問いの結果が掲載されてないと批判を浴びたことは記憶に新しい)では、そもそも自衛隊自体を違憲と考えている人たちが大多数だったということが重要だ。