さて、馳発言に戻ろう。

 ここまで縷々述べてきた指導要領の変遷を、「国会議員として21年間、文教族議員の一員としてやってきた」(会見より)大臣がご存知ないわけがない。大臣就任以前にも03年から04年に政務官、05年から06年に副大臣を務めた生粋の文教族なのである。とりわけ、02年指導要領の方向を定めた96年の中央教育審議会答申以来の経緯は細密にご承知のはずだ。

 「私はゆとり教育がゆるみ教育と、間違った解釈で現場に浸透してしまったのではないかという危惧と、そういう現場の声を矢がつきささるほど、たくさんいただいてまいりました」との発言は、02年指導要領が量の減少としてのみ受け止められてしまったことを指しており、「本来目指されていたゆとり教育と、本質的なものが現場では違っていたというじくじたる思いがあります」は質の問題が閑却されてしまった点を指しているものと思われる。

 そもそもこの記者との問答は、馳大臣が会見当日付けの文書で出した文部科学大臣メッセージ「教育の強靱化に向けて」の意図を問う形で行われている。会見の時点ではまだ公表されていなかったこの文書を見るのが大臣の真意を知るのに最も早道だろう。

 冒頭、「今後の学校教育の充実に不可欠な『学習指導要領改訂』と『次世代の学校・地域創生の実現』の一体的な推進のためにこの夏に向けて取り組んでいく当面の重点事項を掲げました」とあるように、2020年度実施を目指す次期指導要領の方向と、「学校の指導体制の充実」「教員の質の向上」「チーム学校の実現」「『地域とともにある学校』への転換」という学校の在り方について述べている。

 中でも強調されているのが「学習指導要領改訂のポイント」だ。特に、朱書きを交えて大きく掲示されている2点が重要視されているのは明白である。

《「ゆとり教育」か「詰め込み教育」かといった、二項対立的な議論には戻らない。知識と思考力の双方をバランスよく、確実に育むという基本を踏襲し、学習内容の削減を行うことはしない。》

「アクティブ・ラーニング」の視点は、知識が生きて働くものとして習得され、必要な力が身につくことを目指すもの。知識の量を削減せず、質の高い理解を図るための学習過程の質的改善を行う。》

 ここから朱書きの部分だけを抜き出すと、大臣の真意はもっと端的に示される。

 《二項対立的な議論には戻らない》《学習内容の削減を行うことはしない》《「アクティブ・ラーニング」》《知識が生きて働くものとして習得》《学習過程の質的改善》

 端的にキーワードとして掲げられている後の3点が目玉となるわけだろう。いずれも臨時教育審議会が提言し、02年指導要領が目指しながらも達成には及ばなかった、個別化教育と能動的学習という質の転換に関わるものである。大臣が重視しているのは質の問題であることが判るはずだ。