アジアにおける存在感の維持が課題


 他方、ロシアは老いゆく巨人である。原油価格の高騰により冷戦後に破綻状況にあった経済を立て直したが、それは産業競争力に裏づけられたものではない。ロシアは、BRICS諸国の中で2008年の国際金融危機から立ち直るのが最も遅かった。国民の平均寿命も短く、高齢化も進み、国力は今後も低下していくだろう。ロシアにとっては、国力が低下する中で、経済の成長センターとなったアジアにおける存在感を維持することが戦略上の最大の課題であろう。

 ロシアがアジアでの影響力を維持するためには、ソ連崩壊後の財政難でスクラップ状態にある太平洋艦隊を再建しなければならない。ロシアは2010年に6780億米ドル相当の防衛支出計画を発表したが、その4分の1が太平洋艦隊の再建に充てられる。2020年までにロシアは新型の攻撃原潜、弾道ミサイル原潜、フリゲート艦、空母等を20隻導入する予定である。

 しかし、ロシアの海軍力の近代化には大きな障害が残っている。ロシアの軍事産業は300万人を雇用しているが、軍事関連企業の25%は破綻状態にあり、保有する技術もソ連時代のものである。とても最新鋭の装備を生産することはできない。ロシアがミストラル級揚陸艦をフランスから購入するのは、ロシアにその建造能力がないからである。今後10年で20隻もの新鋭艦を国内で建造することも難しいだろう。

 ロシアは日本との間に領有権問題が存在することを認めており、何らかの解決を望んでいることは間違いない。だが、圧倒的な通常戦力を誇るアメリカに対してロシアが大国の地位にしがみつくには、核戦力に依存せざるを得ず、オホーツク海は依然としてロシアの戦略的要衝であり続ける。他方、中国の海洋進出への警戒から、再び北方四島の軍事的価値を再確認しているだろう。

 北方領土の戦略的重要性が高まる中で、ロシアが4島全面返還に同意することはまずないだろう。国後水道の戦略的重要性を考えれば、「面積二等分」や「3島返還」も現実的とは思えない。

安易な妥協による解決は目指すべきでない


 とどのつまり、ロシア側は従来通り2島返還による決着を落としどころとすることに変わりはないはずだ。プーチン大統領のいう「引き分け」も2島返還とみて間違いない。日本がロシア側の動きに惑わされて妥協の姿勢を見せれば、それを逆手に取られ、一方的な経済支援だけをさせられてしまう公算が高い。日露関係の強化によって中国を牽制するとしても、1000億ドルに及ぶ中露の貿易額に比べて日露のそれは半分に満たず、中露の経済関係にくさびを打つことは容易ではない。

 日本としては、あくまで不法に占拠されたすべての領土の返還を迫っていくべきだ。北方領土に関しては、4島の日本帰属をまずロシアに認めさせ、実際の返還の方法は柔軟に対応するという政府方針を維持すべきである。そうすることによって、同じく不法に竹島を占拠している竹島の問題も、尖閣諸島に対して国際法の裏づけのない主張を続ける中国に対しても日本の正当性が強化される。日本は国際法に基づいた領土問題の平和的解決を原則とし、これを揺るがすべきではない。

 一方、ロシアの態度が戦略環境の変化によって大きく変化することも確かだ。資源輸出に大きく依存するロシアの経済にはいずれ限界が来る。そうなれば、北方領土の軍事的価値よりも、日本からの経済支援の方がロシアにとってより重要となるだろう。不法占拠状態が70年近くも続いてしまったが、今の段階で安易な妥協によって早急な解決を目指すことはない。「上から目線」でロシアと向き合うべきである。