明治皇室典範の制定過程での配慮が今日すべて通用するものではないが、それでも現行の皇室典範も排除している譲位・退位を新たに制度として導入することには慎重な検討を必要とする。

 譲位・退位後の天皇の法的な地位についても慎重な検討を必要とする。まず、譲位・退位後の天皇を何と称するのか。歴史上は「太上天皇(上皇)」と称するが、これでよいか。身分についてはどうするのか。内廷皇族として処遇するのか、宮家の一つとして処遇するのか。ご公務についても、憲法上の国事行為は出来ないが、その他の「公的行為」の一部を担うとすれば、何が行え、行えないか、その法的な位置付けはどうか、憲法との関係はどうか、についても整理しなければならない。

 お住まいはどうするのか、皇居内に別の御所を設けるのか、予算についても天皇や内廷皇族の日常の費用である「内廷費」から拠出するのか、宮家の一つとして「皇族費」から拠出するのか。職員の配置も検討が必要であり、皇室経済法の見直しにも繋がる。

 崩御の際の大喪の礼や陵墓についても、現職の天皇と譲位・退位後の「前天皇」と区別する必要はないのか。皇位継承儀礼も終身在位を前提とし、「天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する」(皇室典範第4条)とすることから、生前継承を前提としたものに継承儀礼全体を組み立て直さなければならない。

 既に述べた通り、天皇陛下の譲位・退位のご意向は強い責任感によるものであり、できることならかなえて差し上げたい。しかし、具体的に考えていくと関連する問題があまりに多く、制度の見直しは大掛かりになる。慎重な検討が必要であり、拙速は避けなければならない。

 元号法は「元号は、皇位の継承があつた場合に限り改める」(第2条)とすることから、譲位・退位されれば、元号も変わり、国民生活にも大きな影響を及ぼす。

 そうであれば、それほど大掛かりでない代案についても検討しなければならない。恒久法である皇室典範ではない特別措置法で、今回に限り、ご生前での譲位・退位ができるようにすることも考えられるが、特別措置法であれ、譲位・退位の前例をつくることになり、その場合も譲位・退位の要件、手続き、譲位・退位後の法的な位置付けなどの大掛かりな検討が必要であることに変わりはない。