猪野亨(弁護士)
東京都知事選挙が近づき、候補者の乱立の様相を呈しています。
俳優の石田純一さんが、どのような経緯で声が掛かったのかはご自身の説明でもよくわかっていないようだったのですが、会見の内容は自分がやりたいというよりも野党への統一候補の擁立を促すものであったと思います。
「出馬に家族は反対「話し合いたい」芸能活動で「ペナルティーも」「靴下は履いてもいい」」(前半)(産経新聞2016年7月8日)
「芸能界に「未練ない」「笑われるのも覚悟」壱成、すみれは「電話つながらない」(後半)(産経新聞2016年7月8日)
参議院選挙の最中での表明のあり方が問われていましたが、東京都知事選挙はすぐに来ますので、別に問題があるとは思えません。
むしろ、野党4党がなかなか動かないということにこそ問題があります。
私は、石田さんの会見は、このような動かない野党4党への起爆剤としての意味があり、とても良かったと思います。
民進党岡田代表も共産党志位委員長も石田さんの発言を絶賛していますが、かなり刺激を受けたことでしょう。

それ以上に気になるのは、石田純一さんがこのような表明をしたことによって芸能界から干されるのではないかと危惧する発言があることです。
発言者自身は、石田さんのことを慮ってのことだということはよくわかります。
同じような問題では、近いところで山本太郎さんが反原発の運動を行ったことが芸能界での居場所を失わせたということで、この世界は何と自由にものが言えないんだろうと思いましたが、そのようなものが言えない状態であることは、今なお改めて私たちにも突きつけられた問題です。
これが政権与党の応援だったりすると、だいたいがスルーされます。
与党からの立候補などマスコミが大騒ぎします。今井絵理子氏がその典型例です。
「当選」を前提としているからでしょうか。
あるいは政界を引退した橋下徹氏については芸能界復帰かとまで言われていましたが、あれだけ「色」がついているのに、あの極右思想であればスルーなのです。
以前は、このような世界ではなかったと思います。私が学生の頃、見たような映画では、例えば『千羽づる』などは、原爆をテーマにした反戦映画ですが、倍賞千恵子さんや前田吟さん出演ですが(どこかの映画のキャストと似ていますが)、普通に出演されていたと思います。
この映画が再び見れないのが残念です。
かつての『戦争と人間』のような山本薩夫監督の映画も石原裕次郎さんも出演されていました。
この中で、石原裕次郎さんは外交官の役でしたが、満州事変を引き起こした関東軍に対し、「戦争を止められないのなら外交官の存在意義はない、今日限り、外交官をやめます」という趣旨のことを述べたことが非常に印象に残っています。
体制に気に入られるようなものばかりを財界が望み、それが報道番組の内容にまで及んでいる昨今ですから、石田純一さんや山本太郎さんが干されていくということはその延長線上なのでしょうが、本当にこれだけものが言えない社会でいいのでしょうか。
それは芸能界に限られず、誰も自由にものが言えない社会になることが非常に危惧されます。