日本の水産庁にあたる、台湾の行政院農業委員会漁業署の黄鴻燕副署長は「香港への密輸があることは承知している。罰則強化を検討するなどしているが、取り締まりは容易ではない」と話す。

 また、日本鰻輸入組合の森山喬司理事長に、台湾から香港を経由して、日本へシラスが入ってくる不透明な取り引きの実態について取材したところ、その事実を認めたうえで、「ただ、これは今に始まったことではない。台湾は07年からシラスの輸出を禁止したが、それ以前にも禁止していた時期がある。いわばずっと禁止状態で、同時に日本はずっと輸入している状態だ。今のところ、組合として台湾からのシラス輸入防止に向けて何らかの対策をうつつもりはない。香港からの輸入は日本政府も認めている」と話す。「台湾では日本よりシラスの漁期が早いことから、夏の〝土用の丑の日〟までに出荷サイズに育つシラスが多く、日本の養鰻業者にとってこのシラスはかなりありがたい存在」と続けた。

 こうした状況に対して水産庁増殖推進部のウナギ担当者は「日本からすると、香港から輸入されるため密輸入とはいえないが、輸出を禁じている台湾からシラスが日本へ入ってくる仕組みはよくないとは思っている」と話す。

 ウナギは、人工孵化(ふか)から育てた成魚が産卵し、その卵をもとに再び人工孵化を行う「完全養殖」の実用化技術が確立していない。つまり、天然の稚魚(シラス)を捕獲し、養殖の池に入れて育て、出荷するしか方法がない。

 日本でウナギが大量消費される夏の「土用の丑の日」は例年7月下旬か8月上旬に訪れる。今年は7月30日だ。

日本ではビニールハウスのなかでウナギを養殖するのが一般的な方法
日本ではビニールハウスのなかで
ウナギを養殖するのが一般的な方法
 シラスは一尾0・2グラムほどで、これを出荷サイズである200~250グラムほどにするには、天然の場合、環境にもよるが5年ほどかかる。一方、日本で一般的な養殖方法であるビニールハウスとボイラーを使って、水温を上げ、エサを与え続けて太らす方法だと、わずか6~7カ月ほどで出荷サイズにまで成長する。つまり、1月中旬までには養鰻池に入れなければ、その年の「土用の丑の日」の出荷には間に合わない。

 日本のシラス漁最盛期は、年にもよる(シラスは、新月かつ大潮の日に海から川へ大量に遡上するため、そのタイミングで河口付近で採捕する)が、1月下旬~2月上旬が一般的である。シラスはマリアナ海溝で生まれて、黒潮にのってやってくるが、日本からみると黒潮の「上流」である台湾では、11月1日からシラス漁が解禁され、11、12月が最盛期となる。少しでも早くシラスが欲しい日本の養鰻業者が台湾のシラスに飛びついている、という構図だ。

 シラスの価格は日々変動するが、土用の丑の日に間に合う時期のシラスを巡っては、数年前から1キロ300万円を超すことが常態化しており、これは銀の価格をもしのぐ。この高価格は考えてみたら当たり前だ。7月下旬の「土用の丑の日」に間に合わせるため、買う側である日本の養鰻業者はどうしてもシラスが欲しい。売る側はその足元を見て販売できるからだ。