上野 想田和弘さんが最近、『日本人は民主主義を捨てたがっているのか』(岩波ブックレット)っていう恐ろしいタイトルの本を書かれました。彼は、今の有権者の政治参加意識が低い根本的な原因は、自分たちが政治の消費者であるという意識を持つようになった、つまりお客様になっちゃったからだと分析しています。有権者は本当は、お客さんであると同時に、株主なんですよね。会社が潰れたらツケが来るのは株主じゃないですか。なのに、その自覚がまったくなくて、文句だけ言ってる。宮台真司さんの言う「おまかせ民主主義のブータレ」というやつですね。

國分 想田さんのおっしゃることはよくわかります。ただ、「消費者」になってしまった人に、「あなたは当事者なんですよ! 何で分からないんですか!」と意識改革を迫っても、何も変わらないと思うんですよ。そこはやっぱり、自分が当事者として、実際に行動をやってみせるっていうのが僕の信念ですね。

海上自衛隊のヘリコプター搭載型護衛艦「いずも」に着艦する米海兵隊のオスプレイ=鹿児島県西方沖
海上自衛隊のヘリコプター搭載型護衛艦「いずも」に着艦する米海兵隊のオスプレイ=鹿児島県西方沖
上野 その際、参加のルートは多いほどいい。行政に対しても司法に対しても、世界的なトレンドでは、市民参加の動きが起きています。裁判員制度だって司法への市民参加ですしね。指定管理者制度も評判が悪いけれど、行政への市民参加のひとつではある。公共施設の運営を、市民に委ねる制度です。役人にまかせるよりずっとよい運営ができています。やらないよりはずっとマシだと思います。こういうトレンドは絶対後退させないほうがいい。だから、日本でも政治への市民参加が進んでるのは確かだと思う。

國分 そういう点から見たら、僕の言っていることを後押ししてくれるようなトレンドもあると言えるかもしれない。

 ただ、僕が重視しているのはやはり行政の決定プロセスへの介入なんです。たとえば僕は、地元で保育園のことにいろいろ関わったりしていたんですけど、保育園の民営化なんかは、市役所が勝手に決めるんですよね。住民が行政に全然関われないということを最初に見たのはその事例でした。そういうことに住民がもっと関わる制度って、簡単につくれると思うんですよ。

上野 だったらたとえば公務員を全部任期制にして、5年に1回、実績に応じて契約更新するとか。給料は税金から出ているので、そういうこともありかも。今は地方自治法もかなり大幅に改革されていますから、その気になれば自治体が自由にできる裁量権は前よりもずっと広がっているはずです。

國分 ただ逆に「地方自治」という言葉に縛られて、地方でおかしなことが起きていても、国が介入できないという事実にも目を向ける必要があると思います。橋下氏みたいな強力な市長がいると、上からも下からも何も言えなくなってしまう。

上野 地方自治は大事です。国策だからって、勝手にオスプレイを配備したり、原発を再稼働してもらったりしちゃ困る。地元自治体の同意が要るというのは、素晴らしい制度です。

國分 そういうとき、主権は地域の住民が持っているんだということがきちんと確認されていかないと、「地方自治」が「地方の首長自治」になってしまい、怖い気がしますね。

上野 大飯原発再稼働をめぐっては、地元の町議会は、1人だけ反対、残りは全員が賛成でしたね。

(構成 長山清子)

うえの・ちづこ 1948年、富山県生まれ。東京大学名誉教授。立命館大学大学院先端総合学術研究科特別招聘教授。認定NPO法人WAN(ウィメンズアクションネットワーク)理事長。東京大学大学院教授を2011年に退職。日本における女性学・ジェンダー研究のパイオニア。近年は介護とケアへの研究領域を拡大。著書に『スカートの下の劇場』(河出文庫)、『家父長制と資本制』『生き延びるための思想』(岩波書店)、『おひとりさまの老後』(法研)、『女ぎらい』(紀伊國屋書店)、『ケアの社会学』(太田出版)、『女たちのサバイバル作戦』(文春新書)、『快楽上等!』(湯山玲子氏との共著、幻冬舎)など多数。新刊に対談集『ニッポンが変わる、女が変える』(中央公論社)、共著『毒婦たち』(河出書房新社)。
こくぶん・こういちろう 1974年、千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。高崎経済大学経済学部准教授。専攻は哲学。主な著書に『スピノザの哲学』(みすず書房)、『暇と退屈の倫理学』(朝日出版社)、『ドゥルーズの哲学原理』(岩波書店)、『哲学の先生と人生の話をしよう』(朝日新聞出版社)など。『来るべき民主主義』(幻冬舎新書)は、地元・小平市の住民運動への参加をとおして、現代の民主主義を新たな視点で捉えなおした話題作。