日本の自民党は「自衛隊」を「国防軍」とする憲法改正草案を公表しているが、中国共産党内の議論は真逆である。もし、解放軍を「国防軍」にすれば、「党の軍隊」ではなく「国家の軍隊」となってしまう。軍の防護対象が共産党(政権)ではなく国家そのものとなる。それでは、もし内乱が起こり、軍が中立を維持すれば、政権が倒れてしまうかもしれない。共産党にとって、それは避けたい。だから解放軍の「国防軍」化論は潰されてきた(拙著『日本人が知らない安全保障学』中公新書ラクレ)。共産党の人民解放軍である以上「軍の暴走」という見方自体が的を射ていない。


トカラ海峡は「国際海峡」ではない


 中国の公船は、昨年度も一昨年度も34回にわたり領海に侵入した。およそ月に3回の頻度で領海侵入を繰り返している。遺憾ながら、日本政府として黙認しているようにも見える。なぜ、こんなことになってしまうのか。そもそも中国船は、領海の外側の接続水域で何日間も待機している。待機しながら、海上保安庁の隙を突くように領海侵入し、たとえば3時間航行したあと、また接続水域に戻る。こうしたパターンが「常態化」している。

 そして今回「白い船」ではない「灰色の船」(軍艦)が入ってきた。「白い船」で常態化した右パターンを「灰色の船」で既成事実にする腹であろう。そうなれば、地域の安全保障環境は激変する。絶対に阻止しなければいけない。日本国にそうした危機感があるだろうか。マスコミも中国公船が接続水域に入ろうが、領海に入ろうが、ベタ記事扱いだ。国民も驚かない。中国に慣らされてしまっている。軍艦が入っても一過性の報道で終わり。今日もマスコミは中国艦ではなく、都知事選や参院選の行方を報じている。
中国海軍のドンディアオ級情報収集艦
中国海軍のドンディアオ級情報収集艦
 中国の海洋進出は「サラミ・スライス」戦術と評される(6月15日放送フジテレビ報道チャンネル「ホウドウキョク あしたのコンパス」拙コメント)。サラミを薄くカットするように、目立たないように、少しずつ敵対勢力を切り崩し、徐々に既成事実を積み重ねていく。最初は漁船や抗議船だったのが公船となり、やがて公船の規模能力が拡大。兵装した公船から軍艦となり、その軍艦が接続水域に侵入し、ついに領海侵犯した。もはや薄い「サラミ・スライス」というより「厚切りハム」(福島香織氏)に近い。重大な危機感をもって厳正に対処すべき事態である。

 いつものごとく中国側は正当性を強弁している。領海侵犯に関し「(屋久島、種子島と奄美群島付近の)トカラ海峡は、国際航行に使われている海峡であり、中国軍艦の通過は国連海洋法条約に規定された航行の自由の原則に合致する」との国防省談話を出した。外務省報道局長も当日の定例会見で「トカラ海峡は、国際航行に使われる海峡であり、各国の艦船は通過通航権を有し、事前通告もしくは承認は必要なく、国際法に違反していない」と主張した。