いずれも国際法上の根拠を欠く。日本の「識者」ですら誤解しているが、当該海峡は国連海洋法条約(海洋法に関する国際連合条約)が定める「国際海峡」ではない。国際海峡に関する規定は「海峡内に航行上及び水路上の特性において同様に便利な公海又は排他的経済水域の航路が存在するものについては、適用しない」(第36条)と明記されている。当該海峡は中央に公海が存在しており、国際海峡には当たらない。ゆえに「通過通航権」も発生しない。もちろん「航行の自由の原則」もない。それは公海上の権利であって、領海では「無害通航権」しか認められない。それが世界の常識である。

 
誤解を招く海上保安庁の表現


 問題は通過通航権である。これが認められると「海峡又はその上空を遅滞なく通過すること」や「武力による威嚇又は武力の行使(中略)その他の国際連合憲章に規定する国際法の諸原則に違反する方法によるものを差し控えること」(条約第39条)などの義務を遵守するかぎり、沿岸国つまり日本の海岸スレスレを、中国の潜水艦が潜没航行できる。中国の戦闘機が上空を飛行できる。中国が「国際海峡」と言い出した背景には、以上の事情があるのではないだろうか。

 かつて領海は3カイリだった。それが12カイリとなり、それまで国際航行に使用されてきた海峡が沿岸国の領海でカバーされてしまうことになったことから「国際海峡」の「通過通航権」が認められた。島国であり、安全保障上も重要な海峡を有する日本は困ったことになった。具体的には「宗谷海峡、津軽海峡、対馬海峡東水道、対馬海峡西水道及び大隅海峡」である。海峡の幅が24カイリ以内であり、中央の公海部分がなくなれば「国際海峡」となってしまう。

 そこで日本は「領海及び接続水域に関する法律」の附則で「特定海域に係る領海の範囲」を定めた。「特定海域」とは右の5海峡である。「当分の間、(中略)特定海域に係る領海は、それぞれ、基線からその外側三海里の線及びこれと接続して引かれる線までの海域とする」と明記した。つまり原則は領海12カイリだが、特定海域は例外として(基線から)3カイリまでが領海と規定した。

 この結果、《津軽海峡等は「通過通航権」の認められる「国際海峡」ではなく、ただの海峡ということ》になった(高野雄一『国際法概論』弘文堂)。この点、海上保安庁公式サイトが「国際航行に使用されるいわゆる国際海峡である宗谷海峡、津軽海峡……」と表記しているが、誤解を招く表現ではないだろうか。もし私が中国当局者なら今後、「日本政府が認めているとおり国際海峡」と主張する。