皇室典範改正か特措法か


 ここで具体的な方法論を検討していきたい。譲位を実現させるには、皇室典範を改正して譲位の制度を確立させる、もしくは今上天皇一代限りの措置として特措法によって譲位を実行する二つの方法がある。

 私は譲位を制度にすることには、一貫して反対の意見を述べてきた。今上天皇が譲位なさっても何の問題も生じないことは述べたとおりだが、何百年も先のことを考慮すると、上皇の弊害、強制退位、恣意的譲位などの問題が絶対に生じない保証は無い。

 例えば鳩山内閣は、葉山でご静養中の天皇陛下を、組閣のために東京に「呼びつけ」ただけでなく、自らの都合で閣議の時間を遅らせ、日常的に陛下に待ちぼうけを食らわせた内閣である。しかも、中国の習近平国家副主席(当時)の求めに応じて先例のない引見をも強行した。
中国の習近平・国家副主席(右)と会見される天皇陛下=2009年12月15日、皇居・宮殿「竹の間」
中国の習近平・国家副主席(右)と会見される天皇陛下=2009年12月15日、皇居・宮殿「竹の間」
 この鳩山内閣のように、天皇に対して何の敬意を払うこともなく、天皇を政治利用することをも憚らない内閣が、そう遠くない過去にあったことを忘れてはいけない。

 譲位を制度化させてしまうと、天皇の意思に反して譲位が強行されるおそれもあり、長い将来を見据えたなら、譲位の制度化は避けるべきである。特措法で譲位の道を開くのが上策であると私は思う。

 ところで、憲法2条が「皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する」と規定していることから、『皇室典範』以外の法律で譲位を実行するのは違憲との主張も見受けられる。

 しかし、条文にある「国会の議決した皇室典範」を「国会の議決した皇室に関する法律」と解釈するのは学界の有力な学説であって、違憲とは解されない。

 第2条の公式英文で該当箇所は「the imperial house law passed by the diet」となっていること、昭和21年に帝国議会が日本国憲法案を審議した際に、金森徳次郎国務大臣(憲法改正担当)が第2条の「皇室典範」につき「特にこれには憲法上特別なる名称を付与したと云うだけなんです」と答弁していること、また、現行の『皇室典範』が法形式としては一般の法律と何ら変わりはないことなどから、憲法2条の立法趣旨は明白である。

 つまり、第2条は、『皇室典範』の定めによらなくては皇位は継承できないという意味ではなく、皇位継承を定める法律は『皇室典範』とういう名称が付与されるという意味に他ならない。

 このように解釈した場合、特措法で一代限りの譲位を実行するのに何ら憲法上の問題は生じない。また、『今上天皇の譲位に関する皇室典範特措法』などと、特措法の名称に「皇室典範」の文字があれば、形式的にも憲法2条を逸脱したことにはならない。

 以上の理由により、譲位は、これを制度化するのではなく、一代限りの特措法にて行なうべきであると結論する。