4大裁判やMMR裁判を経て、1994年に予防接種禍4大訴訟の敗訴をうけた国は、予防接種法を改正しました。予防接種は集団社会防衛から個人の健康を守るため個別接種となり、接種は基本的に義務ではなくなりました。どのようなワクチンも基本的には、接種を受ける側が選択できることが保障されたわけです。しかし、その後の制度設計そのものが、経済成長戦略の観点から、ワクチンの増加による市場規模の急速な拡大と、り患するリスクの少ない疾病についても、ワクチンで防げるものは防ぐVPD(Vaccine Preventable Diseases)という考えのもと、国と業界、医師界の太宗、一部マスコミをあげての接種推進政策が続けられている点に根本的な問題があります。


 ネット等で被害者へのバッシングともうけとれる論調に、「国際的にはHPVワクチンの有用性・安全性は確立されています」との前提のもとに、「因果関係がないことは国際的にも明らか」とか、「米国疾病予防管理センター(CDC)や欧州医薬品庁(EMA)もHPVワクチンの安全声明を出し、『これまでの科学的検討から、HPVワクチンが複合性局所疼痛症候群(CRPS)や起立性調節障害(POTS)を引き起こすことを支持する知見はない』と断言している」とし、(被害者の副作用を)「日本で年間約3000人の命を奪う子宮頚がんの脅威と比べて、ゼロではないとしても如何に小さい『副反応』であるかはあきらか」としたうえで、(私の目的は提訴に踏み切った)「彼女たちを『科学的ではない』と批判することにはありません。彼女たちは『HPVワクチン接種後に、それぞれの後遺症を受けた』被害者です。科学的方法とは、A→Bの順番に起こったことをそのまま『因果関係』と認めることではありません。適切な証拠、明確な結論、証拠と結論を結ぶ推論過程、並びに事象の再現性。このような条件を揃えて、科学者はある事象を(少なくともその時点での)科学的事実と捉えます」としています。

 「(原告となることを決めた『被害者』12人を批判する気はありません。『因果関係』が科学的に認められようと認められなかろうと、彼女たちが『被害』を受けたことは事実であり、それに対して『無過失補償』を行うことは必要だと考えています。最終的に因果関係が明確に否定される(あるいは「被害者」たちが納得する)日が来たら、『無過失補償』ではなく、通常のCRPSやPOTSに対する保険診療のみで対応しても良いでしょうが、まだ原告たちが納得できる社会状況にはないと考えています。)としています。(「 」内2016年4月1日 MRIC by 医療ガバナンス学会寄稿文より抜粋)

 因果関係に関する主張の当否は別として、このほかにも、無過失補償をすべきとの議論があります。訴訟という多大なる時間と費用を考えた場合に、無過失補償という立法的解決は有用な選択肢であることも論を待たないでしょう。現にこれまでの薬害エイズやB型肝炎訴訟、スモンなどの一連の訴訟では敗訴または和解後、国は被害者救済のための特別立法での救済の対応を行っています。

 しかし、それも因果関係を認めさせ、訴訟という過酷な手続きを経ての成果です。「因果関係はともかく、被害を受けたから無過失補償でいいじゃないか」という考えは、真の意味での原因究明や責任の所在をあいまいにするものであり、失政やそれに加担した真の原因者の責任をあいまいにし、将来にわたって化学物質等における被害救済にとって組織的過失を繰り返す元凶だということに思いを致す必要があります。なによりも、被害者はなぜ、このようになったのか、その原因を知りたい、そしてもとの状態にもどしてほしいというのは当然の権利というべきものです。

 そもそも予防接種法自体が。国が強制(積極的勧奨)をしたことによる損失補償的な観点からつくられた法律ですから、本来は国の無過失責任を保障するものであったはずです。1994年の法改正以後、迅速な救済と情報公開の理念のもとに改正された法律ですが、その改正を跨いで、予防接種法上の救済と国家賠償法による救済が両方とも司法で認められたことが、改正後の予防接種法の解釈に混乱を期待している原因のように思われます。ここでもう一歩、法的救済について考えてみましょう。

 日本では、民事上、行政上被害を受けた場合の被害回復の金銭的な填補として、損害賠償と損失補償という制度があります。損害賠償は、民事上、債務不履行や不法行為等の違法な行為によって損害が発生した場合に損害を与えた者が、損害を受けた者に対してその損害を賠償して、損害がなかった状態と同じ状態にすることをいいます。損害賠償で賠償される損害の範囲は、原則として不法行為や債務不履行等の原因事実と相当因果関係に立つ全損害。国が損害を与えた場合は、国家賠償法によるとされます。

 これに対して、損失補償とは、適法な公権力の行使によって損なわれた特別の犠牲による財産的補償をいいます。一般的な法律の定めはありませんが、憲法第29条第1項は、「財産権は、これを侵してはならない」と定め、同条第3項では、「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる」と定め、損失補償の根拠とされています。