予防接種禍の法的救済としては、第1に,1976年,予防接種法が改正され予防接種健康被害救済制度(以下,被害救済制度)が作られているので,それによる給付を求める(予防接種法の救済)、第2に,国が行っている予防接種制度によって被害を受けたとして,国家賠償法に基づき裁判に訴えて損害賠償を求める、第3に,一方で,被害救済制度は不十分であり,他方で,損害賠償請求訴訟では過失の立証その他,被害者に重い負担があるとして,損失補償の理論による救済を求めることができるとされてきました。

 被害救済制度による給付請求では予防接種と後遺症との因果関係が,国家賠償法による損害賠償では過失の有無および後遺症との因果関係が問題となりました。この場合の過失とは何か,そしてそれぞれの手続で争われた因果関係はどのような内容のものかが論点とされました。1986年に福島県で提訴された訴訟(筆者も傍聴)では、1996年に不支給処分取り消しとして、第1の請求が認められました。また、2001年,東京地裁は,本件接種に過失があり,それによって原告は損害を被ったとして因果関係も肯定し、第2についても原告勝訴の判決を出しました。

 その後、第1が認められると自動的に第2も認められることから、被害者救済に厚い反面、国が認めない方向に固執し、逆に被害者救済を阻害することになったいう見解も出され、「疑わしきものは認定」ということで、国の因果関係を肯定する姿勢を躊躇させ、逆に被害者救済逆に阻害する可能性が出てきたとの見解もだされています。第3の請求のロジックは今のところ日本の高裁レベルでは否定されていますが、米国はこれに近い考え方取っており、低額ではあっても無過失補償を得るか、弁護士を立て徹底的に損害賠償を争うかの二者択一をさせるという制度を取っています。

米国の制度は優れているのか

 米国では、1970年代から80年代にかけて,予防接種による被害者がワクチン製造業者や予防接種を実施した医師を被告として訴える訴訟が増加しました。予防接種を推進した州政府や連邦政府を訴えなかったのは,アメリカでは伝統的な主権免責法理の下で国家責任を問うことが難しいこと,主権免責を放棄した州についても予防接種自体が効果的な公衆衛生の施策だと評価されている限り,そこに過失を伴う不法行為があるという立証は不可能に近いと考えられたからだとされています。

 そこで,アメリカでは,当時製造物責任一般について判例法による無過失責任(厳格責任)等の救済が拡大していたことから、ワクチン製造業者に対する製造物責任訴訟が主要な被害者救済手段となりました。1980年から1986年までの間に,予防接種被害に関する製造物責任訴訟の請求額は総額で35億ドルにも上り,賠償責任を恐れて,製薬会社でワクチン製造から手を引くものが増加したとされています。

 アメリカの場合には,社会の個人主義的傾向にもかかわらず,強制という要素を伴わせて1988年に救済制度が連邦政府の下で作られました。しかも,アメリカの場合,その救済を選択すると損害賠償請求の訴権を失う形(補償としての被害救済制度と損害賠償請求訴訟が択一的で,どちらかを選択しなければならない)になっているのです。その代わり,被害救済制度では過失を立証する必要がなく,予防接種によって被害を受けたことだけを立証すれば救済が与えられるとされています。

 アメリカの弁護士には,予防接種によって被害を受けた人に相談をされた場合,この救済制度が存在することを知らせる義務が課されており,不法行為訴訟に訴える前に救済制度への請求をしなければならない形になっているそうです。しかしながら、米国の救済制度がうまくいっているわけではなさそうです。

 無過失補償と言っても、① 軽微な損害を除外するため,損害は少なくとも6か月以上継続し,死亡かまたは入院や手術を必要とする重症の場合に限定した。②救済を請求する期間に一定の出訴期限を設けた。③請求にあたっては,百日ぜきなど限定列挙された一定範囲の感染症に対する予防接種を受けた事実とそれによって被害を受けたことを証明する医療記録を提示することが求められている。④法律には付表(table)が付けられており,そこには予防接種の種類ごとに一定の副反応と接種後発症する通常の期間が明記されている。それに当てはまる請求は付表型として因果関係ありとの推定が働く。しかし,それが当てはまらないケース(非付表型)では,被害者は予防接種によって被害が生じたことの立証責任を負う。⑤請求は裁判所に行う。Court of Federal Claims(連邦請求裁判所)に訴え,補助裁判官(special master)が240日以内に認定を行い,通常はそれに従った決定の形で判断がなされる。上訴も可能であり,その場合,Court of Appeals for the Federal Circuit(連邦巡回区控訴裁判所)への上訴がなされ,最終的には連邦最高裁へも上訴する可能性がある。