優秀なスタッフほど「相手の感情」に寄り添う


 相手が人間の場合も同様です。交渉の際、自分の意思を押し付け“相手をコントロールしてやろう”というマインドでは、物事をうまく進めることはできません。相手の経験やスキルが自分よりも優れている場合、反対に相手の意のままに操られてしまうこともあります。

 私は、障害馬術選手の育成以外に、乗馬クラブクレインの関東にある6つの事業所の運営責任者も担っていますが、やはり優秀なスタッフほど「相手の感情を意識する」ことを心がけているように思います。

 乗馬体験にいらっしゃるお客様や新たに入会したいというお客様に対し、一方的に伝えたいことを話すのではなく、「相手がなぜ乗馬に興味を持ったのか」「何がネックになっているのか」「心地よい空間と感じてくれているか」を意識して話を進められるスタッフほど、お客様との関係構築も上手くいきますし、結果にもつながっているようです。

「いつも通り」ができないと、馬は混乱する


 本番に強い人の最後の条件、それは「普段から本番を意識したメンタルトレーニングを行なっているかどうか」ということです。

 意外と知られていませんが、障害馬術という競技は当日までどのようなコースを走るのか、どういった障害が設置されているのか開示されません。人間だけは下見といって、本番15分前にコースを歩くことができるのですが、馬は本番で初めてそのコースを走ることになります。

 人間の役割は、15分の間に障害と障害の間を馬に何歩で走らせるか、ミスなく早くゴールするために、どこで勝負をかけるかを判断すること。そして何より重要なのが、普段の練習時と変わらない乗り方をすることです。

 たとえば、人間が緊張していつもとはコントロールの加減が違ったりすると、馬は「あれ? いつもの指示とは違うな。どう動けばいいんだ?」と混乱してしまうのです。
 競技自体はわずか2~3分程度なので、緊張で通常通りの乗り方ができないと、立て直す間もなく競技はあっという間に終わってしまいます。

最後は「メンタルトレーニング」が勝負を分ける


 本番でいつも通りの乗り方をするためには、普段の練習の際から本番を想定したメンタルトレーニングをしておくことが何よりも重要です。

 私は今年58歳になりましたが、現役の障害馬術選手として大会に出場しています。

 本番で最高のパフォーマンスをするために、練習を行なう際は、『これはすごく大きな大会……観客もたくさんいる……周りの選手にもカッコ悪いところは見せられない!』と本番と同じ心理状況に持っていき、障害を飛ぶようにしています。練習でこれを繰り返すことで、プレッシャーを味方につけ、緊張すればするほど結果を出せる体質に変わってきました。

 仕事も同様だと思います。いくらプレゼンの練習をしたところで、本番では相手がみな難しい顔をしていて最悪の雰囲気の中で話をしなくてはならないこともありますし、予測もしなかった質問が飛び交ったりもします。そうした“いつもとは違う状況”で力を発揮するには、普段から意図的にその状況を作り出し、トレーニングをする必要があります。

 この時のポイントは、環境だけでなく意識もその状況下に置かれた状態に持っていくことです。プレゼンであれば、自分の話す内容だけを練習するのではなく、その場の緊張感などを想定し練習をするのです。たとえば「ドアを開けた瞬間、5名の参加者が座っている。笑顔はなく部屋全体が緊張感に包まれ、全ての視線が自分に注がれている。心臓の音も聞こえるし、手にも汗をかきはじめた。声も上ずってしまいそうだ。この空気に飲み込まれてはいけない」などと、できるだけ具体的に、本番に置かれるであろう心理状況に近づけるのです。

「キャリアを積み重ねても、人の意見に素直に耳を傾けること」
「相手の意思を尊重すること」
「本番を意識したメンタルトレーニング」

を意識することで、本番で結果を残せる人材を目指しましょう。

なかの・よしひろ 乗馬クラブクレイン取締役。過去4回オリンピックへの出場(内1回は直前で棄権)を果たすなど、日本のトップ障害馬術選手として活躍。アジア大会では、2度(ソウル[‘86年]・広島[’93])団体で金メダルを獲得。2005年には、国内競技500勝を達成する。現在は、乗馬クラブクレインの関東圏にある6事業所を束ねる支社長と障害馬術部門のコーチを務めるほか、公益社団法人日本馬術連盟の障害馬術本部副強化委員を兼務し、若手選手の育成や大会運営などにも力を注ぐ。