孤立主義はアメリカのジェネ(遺伝子)である


 外交政策でもトランプ候補は「アメリカ・ファースト」を主張し、孤立主義を訴えている。インテリ層は、その政策をヒトラーの政策と同じだと批判している。共和党主流派の現実主義の外交専門家は、トランプ候補の外交政策を非現実的と退ける。だが、アメリカ社会は伝統的に孤立主義の傾向が強い。

ニューヨークの公園ユニオンスクエアに一時設置されたトランプ氏の裸像(AP=共同)
ニューヨークの公園ユニオンスクエアに一時設置されたトランプ氏の裸像(AP=共同)
 たとえば初代大統領のジョージ・ワシントン大統領は大統領職を去るにあたって行った演説のなかで「我が国の偉大な行動ルールは、諸外国と経済的関係を拡大する際、できるだけ政治的な関わりを持つべきではない」と語っている。モンロー主義を待つまでもなく、ワシントン大統領の遺伝子はアメリカ政治に組み込まれている。第1次世界大戦にも、第2次世界大戦の際にも、アメリカ国民は参戦に反対し続けた。トランプ候補は、そうしたアメリカ社会の孤立主義を巧みに喚起しているのである。

 さらに共和党政策綱領の中には、英語を公用語にする、不法移民への恩赦を禁止する、不法移民を排除するためにメキシコ国境に壁を建設する、銀行の規制緩和を進める、消費者保護を中止する、労働組合を縮小させるといった超保守的な主張も盛り込まれている。トランプ候補が想定するアメリカ社会は“過去のアメリカ”である。クリントン候補が“アメリカの将来”を訴えているのとは対照的である。

 トランプ現象は明らかにアメリカ社会の右傾化を反映したものである。ただ、アメリカ社会がすべてトランプ化しているとみるのは間違いである。一時、世論調査でトランプ候補がクリントン候補をリードしたが、最近の世論調査では再びクリントン候補がトランプ候補を大きくリードするなど、巻き返している。トランプ候補の無教養と思える発言が同候補に対する支持率の低下を引き起こしている。共和党の議会議員、インテリ層は現在でもトランプ候補の引き下ろしを画策している。多くの議員は、トランプ候補を擁して選挙戦を戦えないと主張し始めている。トランプ現象は一時的なものである。ただ、その背景にあるのは、先に述べたように「白人のプロテスタント国家」アメリカが確実に終焉に向かっており、それに対する根強い不満が存在している。アメリカが直面している問題は、将来、アメリカは国家としてどのようなアイデンティティーを確立すべきかということである。