考え方の違う人間を握手や酒によって巻き込み、自分の影響力をじわじわと広げるのは政治家の本能的な行動であり、上記の例は珍しいことではない。

 だが、角栄は極く自然に自分から行動に出てイスを窓際から運び、ビールを勧める。それが徹底し、イヤミを感じさせないのだ。田中派などに典型的な「一致団結、ハコ弁当」の一体感を嫌う石原氏のような政治家さえ引き付けてしまう魅力を角栄は備えている。

 私の極く小さな思い出話を添えよう。昔、日経ビジネスの記者をしていた時、当時の編集長(後に日本経済新聞社の社長、会長を経験した)杉田亮毅氏がロッキード事件後、マスコミがほとんど寄り付かなかった田中角栄氏に接近し、編集長インタビューを実現したことがあった。

 その際、杉田編集長から聞いた話だが、昼食時に角栄氏は自ら食事を用意、編集長に振舞った。中味はカツ丼だ。当時、日経側は速記を2人つけた。速記が遠慮して「それでは(昼食中)私たちは一時、引き上げます」と言って、腰を浮かしかけると、角栄氏は「ああ、君たちもそのまま」と制して、同じカツ丼を速記にも振舞った。

 上等のカツ丼である。杉田氏は「うまかった。ああして、だれにも分け隔てなく対応するのが角さんの人気の秘密だ」と言っていた。

 私も同感である。誰に対してもきめ細かくあれほどの行動力を示した政治家は稀である。必要な事は夜を徹して勉強し、戦後、最も多くの法律を議員立法で成立させて通した。

 だが、彼は金権政治と最も深く同居した。「君、国売り給うことなかれ」と言わざるを得ないほど。その角栄氏を石原氏は「あれほどの政治家は今いません」と指摘し、最も懐かしく想い出す。現在の政治の実情がそこにある。