同じ頃、中国と接する国境の町で、住民を集めて政治講演会が開かれた。平壌から派遣された党幹部の講師が「中国を信じるな。お前たちは国境に住んでいるので裏切り者がよく出る」と話したとき、聞いていた住民の一人が「そんなに我々を信じられないなら、朝鮮から切り離して中国にくっつけて下さい」と抗議し、その場で捕まった。

 住民たちは、信用できる仲間同士話すときは、金正恩のことを本来呼ぶべき「元帥様」と言わず、「あの若い野郎」「肥った奴」などと呼んでいる。

 金正恩政権成立5年目を迎え、当初は少しは暮らしがよくなるかもしれないと期待していた住民も、あきらめている。国境地域だけでなく、内陸まで市場では北朝鮮通貨はほとんど使われず、ドルか人民元がないと小さなもの以外買えない。中朝国境近くでは豆腐一丁も全て人民元でしか買えない。

 治安機関も動揺している。今年2月から国家保衛部(政治警察)、人民保安省(一般警察)の末端職員の家族に対する配給が止まったという。職員本人分しか配給がないということだ。これまでは、90年代半ば、一般住民への配給が止まって300万以上が餓死したときもこのようなことはなかった。人民保安省職員らは、市場に行って難癖をつけて物資を没収するなどして家族を食べさせることができる。だが、保衛部は捜査の対象が政治犯であるため、捕まえたら収容所に送るか殺すかしなければならず、ワイロを受け取って見逃すとあとで自分が捕まりかねないから、役得がなく、むしろ生活が苦しいという。独裁政権を守る最後の砦と言うべき政治警察が末端から弱体化している。

 引退した保衛部の元最高幹部は最近、肉親に「国がどうなるか分からない」と漏らした。末端の地方保衛部員らは、住民をなるべきならつかまえたくないと思っている。現政権は長く持たないから、政権崩壊後に自分たちが人民にリンチされることを恐れているという。

北朝鮮・平壌にオープンしたすし専門店でタッチパネルを使い料理を注文する男性客=9月7日
北朝鮮・平壌にオープンしたすし専門店でタッチパネルを使い料理を注文する男性客=9月7日 
 様々な方法で外貨を貯めた新興富裕層(トンジュ)がいまや生産分野にも投資するようになった。社会はほとんど資本主義化している。外貨を払い、労働者を食べさせていけるなら小さな工場や商店の経営権を買うこともできる。一定のカネを上納して雇用する労働者を食べさせることができれば、運送業、薬局、食堂、中小工場の経営権を買える。登録は国営企業などになる。保衛部が金の出所を調査するが30万ドル以下であれば、華僑が投資したというとそれ以上問題にならない。労働者の解雇もできるという。

 不動産業者が平壌と地方で営業している。土地やアパートを売買する(使用権という建前)。平壌で住宅を買う場合、最低5万ドル、まずまずの家なら30万ドル必要だという。病院務めの医者も自宅で闇開業している。家の表に紙で「●●科診療受けます」とはる。値段も決まっている。現金だけでなく米やトウモロコシでの支払いも認める。