まず、大きいのは黒田、新井という二人の復帰組の存在だ。

 黒田は敬意に満ちた大先輩、新井はダメキャラ的ないじり要素も持った愛すべき先輩。ふたりの存在はチームのエネルギーを生み出した。こうした存在がジャイアンツにいただろうか。

 シーズン中、多くの評論家が絶賛した「インコース攻め」は、今季のカープ投手陣を象徴するキーワードでもあった。その手本を身をもって示したのが黒田であり、勇気を持って内角に構えた捕手の石原だった。

巨人対広島。4回表、ソロホームランを放つ 鈴木誠也
=9月10日、東京ドーム
巨人対広島。4回表、ソロホームランを放つ 鈴木誠也 =9月10日、東京ドーム
 生え抜きの成長も大きかった。すでに日本一のセカンドの評価を得ていた菊池涼介に続き、3戦連続で勝負を決めるホームランを放って、緒方監督に「神ってる」と言わしめた鈴木誠也の活躍も勢いを注いだ。ジャイアンツの若手もしばしばヒーロー的な活躍を見せているが、菊池や鈴木誠也ほどの伝説的な輝きはあっただろうか。

 この陰には、広島カープのフロントの覚悟と実力も見逃せない。12球団で最も経済的に厳しいと言われる広島カープは、言い方を変えれば、「日本で唯一、親会社に依存しない、独立採算で球団経営を貫いている黒字球団」とも言われる。潤沢な資金はない。その代り、独自のアイディアと路線を確立し、戦力アップを図ってきた。ドミニカのカープ・アカデミーもそのひとつ。高額な外国人を獲得できない分、先行投資して、自ら海外の選手を育成する発想と実行力はジャイアンツにはなかった。そして今年は、ドラフト戦略の勝利が際立ったとも言える。

 菊池も鈴木も、それなりに各球団から注目され、指名リストに挙がっていた。しかし、他球団の多くは「上位でなくても取れるだろう」と高をくくっていた。広島は違った。菊池や鈴木も2位で指名し獲得した。欲しい選手は上位で取り、主力に育てる。簡単そうでなかなかできないことを広島カープはやってのけている。名前や肩書き、アマチュア時代の人気などに左右されがちなジャイアンツや他球団にはない姿勢だ。

 
ファンの声援に応える広島・緒方孝市監督
=9月10日、東京ドーム
ファンの声援に応える広島・緒方孝市監督
 =9月10日、東京ドーム
 そして最後に監督の経験。
 昨季は緒方監督の采配に批判が集中した。結果が出なければそれもやむをえない。さんざん叩かれた経験が、緒方監督の中で糧になったのも事実だろう。ジャイアンツの高橋由伸監督は、一年目でやはり、選手との距離感を掴みきれなかった。現役時代はソフトな印象だった高橋監督が、意外なほど選手に厳しいコメントを発することに驚かされた。「監督は選手の上に位置してリーダーシップ発揮するもの」という先入観、固定観念に縛られて虚勢を張っているようにも見える。

 緒方監督は、ミスに対して厳しい選手起用をするなどの姿勢でチームに緊張感は与えているが、選手を尊重する謙虚さをも感じる。若い選手の気風が変わっている時代を捉え、選手と監督の新しい関係、ほどよい距離感を生み出しだという面でも、広島カープに一日の長があったように感じる。

 独自の姿勢を貫き、25年ぶりの優勝を勝ち取った広島カープ、球団、首脳陣、選手、そして支え続けたファンに心からお祝い気持ちを伝えたい。広島カープには、プロ野球の未来を拓くヒントがたくさんある。