特にシリア難民については、最大の難民受け入れ国のドイツで人権組織が実施した約900人の難民の調査で「70%がアサド政権の攻撃から逃れたと答えた」という結果を、ドイツの国際放送「ドイチェ・ヴェレ(DW)」が伝えている。

 報道によると、調査に関わったドイツ人人権活動家は「ドイツでは多くのシリア難民が出ているのはISのせいだというイメージが広がっているが、それとは異なる調査結果が出て驚いている。ISとの戦いを続けても、難民を減らすことにはならないということを示す。ドイツの外交官は念頭に置いておくべきだ」と語っている。

イスラム国(IS)によるペイントの前に立つ自由シリア軍の兵士
=8月31日、シリア・ジャラブルス
イスラム国(IS)によるペイントの前に立つ自由シリア軍の兵士 =8月31日、シリア・ジャラブルス
 ISへの対応は重要であるが、シリア内戦で残酷なISのイメージが肥大化しているのは、ドイツだけでなく、ほかの欧米や日本でも同様であろう。難民問題への解決を考えれば、空爆や樽爆弾を使って市民を無差別に殺戮するアサド政権の暴力をいかに終わらせるかを、国際社会が真剣に考え、対応するしかない。特に米国とロシアの連携が必要だが、政権支持のロシアと、反政権の米国で不信感が強い。

 違法な難民をトルコに送還するというEU・トルコの合意については、人権組織からは強い批判が出た。米国に本部を置く「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」(HRW)は「圧倒的な数の難民を前に、一人ひとりに十分な保護と安全を提供できておらず、それが可能になるまで、欧州連合(EU)はトルコへシリア難民を送還すべきではない」と批判した。

 270万人のシリア難民を抱えるトルコで、難民の受け入れ環境については、就業や教育、住居など様々に問題があるが、特に子供の教育の問題は深刻だ。HWRが2015年11月に発表したシリア難民の教育に関する報告書によると、就学期の難民の子供は71万人。難民キャンプにいる難民は全体の1割で、難民キャンプでは子供はほとんど教育を受けているが、トルコの都市部に住む9割の難民のうち、トルコの学校に通う難民の子供は21万人に過ぎず、学齢期で学校に行っていない子供は40万人以上としている。

 難民生活が何年にもわたり、学齢期の子供たちが教育の機会を奪われれば、「失われた世代」をつくることになる。成長しても就職の機会が制限され、武装組織や犯罪組織に入ったり、利用されたりするなど、将来にわたって世代への悪影響が残ることになる。社会に恨みをつのらせる子供たちの中から過激派組織「イスラム国」に入る者も出てくるだろう。