ところが、厚労省は何もしなかった。当初、厚労省は消費税引き上げに伴う医療機関の損税に対応するため、17年4月に薬価を改定する予定だったが、安倍政権の消費増税延期とともにお流れとなった。

 中央社会保険医療協議会(中医協)では、ニボルマブだけでも薬価を引き下げようという話が出てきたが、日本医師会は乗り気ではなかった。その理由は「来年、ニボルマブの薬価を下げると、再来年の診療報酬改定で、医療に回す財源がなくなるから(医療業界誌記者)」だ。結局、何も決まらず、医療費だけが膨張する。迷走を尻目に、小野薬品はボロ儲けした。6月期には252億円を売り上げた。前年同期比17倍の伸びである。全医薬品の中で3番目だ。17年3月期の売上は1260億円と予想されている。

 最近、ニボルマブは腎細胞がんにも適応が追加されたし、小野薬品とブ社は、ホジキンリンパ腫、頭頸部がんへの適応拡大を申請中だ。さらに胃がん、食道がん、肝細胞がん、卵巣がんなどへも臨床試験を行っている。小野薬品も批判は理解している。同社社長、相良暁氏は朝日新聞の取材に答え、「先に肺がんで申請していれば、薬価は安くなったに違いありません」とコメントしている。

 ただ、「売上高が予想の1・5倍以上で年間1千億円を超えた薬に限り薬価を下げる特例拡大再算定制度も今年始まりました。高額薬を狙い撃ちにしたこれらの制度は経営の見通しを立てにくくさせ、研究開発へ負の影響も出かねません」と理解を求めている。製薬企業の経営者が、しばしば用いるロジックだ。

 ただ、20年度には全世界の売上が1兆円近くに達すると予想されているニボルマブに対し、この説明は説得力がない。私は、画期的な新薬に相応の対価を払うことを否定しない。ただ、程度の問題だ。ニボルマブを「夢の新薬」と煽り、高額な薬価を正当化しても、長期的には国民のためにならない。国民皆保険制度が壊れてしまっては、元も子もない。