同時に、後楽園ホールの試合で魅力を感じた、10代のボクサーをも追いかけていた。長身でスマートな彼は、どこか大場政夫を思い出せた。話してみると、やさしげな少年だった。その彼が、格上ボクサーと戦い、殊勲の勝利を挙げたまでは順風満帆だったが、試合の数日後、相手ボクサーが亡くなる事故が起きて彼は精彩を失った。紆余曲折しながらボクシングを続けた彼が、ロサンゼルスのジムでトレーニングを積み、やがて帰国して地方のリングで日本タイトルを獲得する折々を私は見つめ続けた。
亀田和毅の協栄ジム所属を発表した記者会見後、握手をする協栄ジムの金平桂一郎会長(左)と和毅の兄で元世界王者の亀田興毅氏=10月7日、東京都新宿区の同ジム
亀田和毅の協栄ジム所属を発表した記者会見後、握手をする協栄ジムの金平桂一郎会長(左)と和毅の兄で元世界王者の亀田興毅氏=10月7日、東京都新宿区の同ジム
 
 そう書けば美しいドラマになりそうだが、現実は甘くない。やさしそうな彼が、日ころ、不当と思える扱いを受けるとすぐ拳を振るい、暴力で他人を圧倒する癖を持つことを知って、呆然とした。プロボクサーは、リング以外では決して拳を使わないと言われているが、現実は理想通りでないことを知り、私はボクシングを安易に美化してはいけないことを身をもって痛感した。
 
 それは、「安易にお金儲けに使ってはいけない」という戒めにも通じるだろう。

 ずっと海外のリングでファイトし続けてきた三男、和毅が日本のリングに立つことができれば、ファンにとっては待望の試合が実現するわけだし、和毅自身にとっても可能性が広がる。明日ある若者の活躍の場が与えられることは喜ばしい。

 それは同時に、「いずれはジムの会長になって、ボクシング界に恩返ししたい。盛り上げるアイデアはたくさん持っている」という趣旨のコメントをした長兄、興毅の日本ボクシング界復帰の道を開く糸口にもなる。

 少年のころ、沼田義明と小林弘の日本人対決に言葉をなくして見入った思い出がある。輪島功一の敗北も、奇跡とも評された逆転勝利も、胸を熱くして見た。辰吉丈一郎と薬師寺保栄の対決も身体の中に戦慄に近い感覚を抱えて見つめた。

 日本のボクシング界も亀田三兄弟も、ボクシングがただの見世物でなく生死と紙一重の勝負であることは、門外漢に言われるまでもなく分かっているに決まっている。そして、リング上で繰り出すパンチと暴力が紙一重だという認識をさらに直視した上で、今後の指導や運営に当たってほしいと切に願う。