理想の家族としての「サザエさん」は、時代に合わせて進化もしている。「サザエさん」は理想の家族ではないと考える人の中には、波平が厳格すぎるという意見もある。たしかに、カツオに説教するときには、畳の上に正座させて「バカもん!」と怒鳴りつける。これは、今時なかなかいない父親だ。

 ただし、波平は怖いだけではない。子どもたちを深く愛しているのはもちろんだが、さらにどこかユーモラスである。厳格なだけではなく、そそっかしいところもあり、失敗もする。波平は失敗を素直に認め、照れ笑いしたりする。子どもたちは、怒られる時には怖い父親であっても、日常的に父親を怖がっているわけではない。

 あまりに完璧すぎる家庭は、立派な家庭であっても、子どもの息がつまる。どこか抜けている部分がある家庭こそがすばらしい。心理学的に言えば、「ほどよい親」こそが良い親だ。

 波平は、厳格だが優しく理解もある。父親参観日には、必ず学校にも行く。ある日のストーリーには、こんな話もあった。ワカメの父親参観日の授業が、ワカメの苦手な体育の跳び箱になった。ワカメは悩み、カツオが一肌脱ぐ。父親参観日を目指し、カツオの指導のもと、ワカメは跳び箱の特訓だ。

 さて、父親参観日当日。ワカメは一生懸命チャレンジしたが、結局は失敗。学校から帰った後、ワカメはうつむいてお父さんに謝る。こんな時、波平が怒ったり不機嫌になったりするわけがない。娘の努力を認め、優しい言葉をかける。物事の結果ではなくプロセスこそほめるべきなのは、現代心理学でも提唱されている大切なポイントだ。

 波平は、頑固な面もあるが、妻に対する配慮もできる。ある日、フネが言う。「私、英会話を習おうと思うの」。フネと英会話。これはミスマッチだ。普通の男なら、からかって笑ったり、反対したりするかもしれない。しかし、波平は決してそんなことはしない。「それは良いことだ」と認め、母さんが安心して英会話教室に通えるように家事も引き受けようと言う。娘婿のマスオも「ボクも協力します」と語る。年だから、女だから、主婦だから、だから英会話などするなとは、誰も考えないのがサザエさん一家だ。心理学の研究でも、夫婦が互いに相手の目標達成を具体的に応援することが大切だとされている。サザエさん一家は、心理学の本でも読んでいるかのように、私たちにあるべき夫婦像、親子像を示す。