そんな最中に起きた国を揺るがす大スキャンダルですから、国民に動かされる形で与野党が朴氏の弾劾に動く事態もあり得ると思います。ただ弾劾については、盧武鉉元大統領の時の失敗を教訓に、安易に動くことには与野党とも慎重にならざるを得ません。今は沈黙しているコンクリート支持層の反発に触発された世論の批判を受けて、しっぺ返しを食らう事態を恐れるわけです。ただし、盧氏の時と今回とは状況が大きく違います。盧氏は就任1年後、それも総選挙直前の弾劾請求でしたが、朴氏の場合は残り任期1年余りのうえ、総選挙も敗北する形で終わっているからです。
記者会見で謝罪する韓国の朴槿恵大統領=10月25日、ソウルの青瓦台(聯合=共同)
記者会見で謝罪する韓国の朴槿恵大統領=10月25日、ソウルの青瓦台(聯合=共同) 
 もし与野党が合意して国会で弾劾が可決されれば、憲法裁判所の判断に委ねられますが、認められれば60日以内に後任の大統領選挙が行われます。ここで問題になるのは、与野党とも大統領選への準備が全く進んでいないということです。潘基文氏や、野党からは実質的な最高実力者である文在寅(ムン・ジェイン)氏の名前が挙がりますが、韓国政治が大転換点を迎えたいま、果たして彼らが国民の目に新しい道を提示できる人物と映るかどうか、疑問が残ります。既存の政治に対する不信感は頂点に達しています。

 潘氏が支持を集めてきた理由は、国内で「世界大統領」とも呼ばれる国連事務総長という抜群の知名度に加え、外交官出身のクリーンなイメージによるものですが、任期末になって、与党の親・朴槿恵派に近づきながら大統領への色気を露骨に見せるようになってきたことから、今回のスキャンダルで大きな打撃を受けると思います。むしろこの二人を飛び越えて、次の次の大統領候補と目されていた人たちによる世代交代が一気に起こる可能性もあると思います。

 現在の韓国の繁栄を作り出す上で、朴正煕が果たした役割が大きいことは疑いないものの、一方で、韓国社会が抱える様々な矛盾にも朴正煕の存在は大きな影を落としています。英雄か、単なる独裁者か、朴正煕をめぐる評価は未だに国論を二分するほどです。非業の最期を遂げた朴正煕の娘である朴槿恵までがこうした形で惨めな末路をたどることになったことは、韓国現代史の大きな悲劇だと思います。(聞き手、iRONNA編集部・松田穣)

おくぞの・ひでき 静岡県立大学大学院国際関係学研究科准教授。福岡県出身。九州大学大学院比較社会文化研究科博士後期課程単位修得退学。NHK記者、朝日新聞記者、韓国東西大学校国際学部助教授などを経て、平成22年から現職。専門は現代韓国政治外交、朝鮮半島をめぐる国際関係。