「判決は紙屑」の横暴


 中国は文明国でもあり、文化大国でもある。私はそのような中国への尊敬も抱いている。しかし、共産党支配の中国の「法の支配」を否定する非常識は断固受け入れられない。

 胡錦濤政権時代、外交の責任者だった戴秉国は、判決が出る直前の七月五日、アメリカのワシントンで行われた米国カーネギー国際平和財団と中国人民大学重陽金融研究院主催の南中国海問題対話の開幕式で講演を行った。

 そこで「仲裁裁判所の判決は重大なものではない、ただの紙屑だ」と述べた。裁定後の七月十三日には中国の外務次官も同様の発言をしたが、戴秉国の講演は全体にわたって驚くべき暴言、虚言の連続である。中国外務省は戴演説の全文をホームページに掲載した。つまり、戴氏の暴言は中国政府の主張そのものだということだ。一部を引こう。

〈南沙諸島の中国復帰は、(第二次世界大)戦後の国際秩序と領土の取り決めの一部であり、国連憲章など国際法によって守られている。
 その後フィリピンやベトナムは中国の南沙諸島の一部の島や礁を不法に武力侵略・占領した。国際法に基づき、中国は自己保存権と自衛権を完全に有し、こうした島や礁を取り戻す能力もある。
 だが中国は地域の平和・安定維持の観点から、長年高度の自制を保ち、交渉による平和的解決を探り続けてきた〉

〈フィリピンが中国との南中国海紛争について一方的に仲裁を申し立てたことは、南中国海における関係国の行動宣言や、中国側との一連の二国間合意、および国連海洋法条約の規定に背き、始めから不法だ。
 仲裁裁判所が近く示す裁定は紙くずに過ぎない。中国がこのような仲裁を受け入れず、いわゆる裁定を認めず、執行しないのは、国際法に基づき自らの権利を守ることであり、国連海洋法条約の完全性と権威を守ることでもある〉

〈近代以降、中国は西側列強にさんざん虐げられてきた。これは中国人の記憶に新しい。中国が領土主権の問題における命運をしっかりと自らの手に握り、いかなる第三者の解決案も断じて受け入れないのはこのためだ。当面の急務は、いかなる挑発的行動も取らないようフィリピンを厳しく制約することだ〉

〈中米は世界最大の発展途上国および最大の先進国として、世界経済の発展、国際平和・安全の維持などの面で一層の共同責任を担っている。中米は共に知恵と先見性に富む偉大な民族だ。共通利益の観点から、相互尊重を堅持し、率直で誠意ある意志疎通を行ないさえすれば、双方は溝を適切に管理・コントロールし、協力のチャンスを見出すことが必ずできる〉(人民網日本語版、二〇一六年七月七日付記事より)

 驚くべきことに、「仲裁を受け入れないことこそが国連海洋法条約を守る態度である」と述べているばかりか、「いざとなれば力尽くで島や礁を奪い返すだけの力はあるのだ」と誇示しているのである。

 さらに西側に虐げられてきたとする被害者、後進国としての主張と、米国と並ぶ大国になったという二つの立場を使い分けながら、〈中国の平和的台頭及び覇権争いをしない戦略的意図を明確に認識〉するようアメリカに要求している。中国の身勝手なダブルスタンダードが鮮明に読み取れる。