同じことは東シナ海でも


 もう一点、日本が最も警戒しなければならないのが東シナ海である。南シナ海で起きることは、必ず東シナ海でも起きる。現に中国は、尖閣諸島の久場島周辺に海軍のミサイル駆逐艦を入れてきた。鹿児島の口永良部島では、同様のミサイル搭載のフリゲート艦が領海に侵入した。

 軍艦が日本の接続水域や領海にまで入ってくるようになったことは、中国の対日戦略が新しい、より緊迫した局面に入ったということである。

 南シナ海では警察力を主軸とする監視体制を強化するとともに、東シナ海も含めたアジアの海を守るために海保と自衛隊の協力、他国との共同パトロール体制も推進しなければならない。

 なぜこのような防衛努力を日本がしなければならないか、なぜ日本が指導力を発揮しなければならないかは、アメリカをはじめとする国際社会が、かつてないほど孤立主義に向かっていることを見れば明らかである。

 オバマ大統領の「アメリカは世界の警察官ではない」という宣言とシリアに対する軍事介入否定、それに続く南シナ海での中国に対する軍事介入の否定は、アメリカの孤立主義を際立たせる。こうしたアメリカの内向き志向は、トランプ氏によってさらに強調されつつある。

 国際社会を広く眺めれば、アメリカのみならずEUからの離脱を決めたイギリスをはじめ、自国中心主義、孤立主義の連鎖が起こり始めている。

 イギリスのEU離脱に追随するかのような動きが、マリーヌ・ルペン党首率いるフランス極右政党「国民戦線」をはじめ、オーストリア、ドイツ、ポーランド、チェコ、スロバキア、オランダなど多数の欧州諸国で見て取れる。

 EUを離脱したイギリスの存在感が失われれば、英米を中心とするNATOの枠組みにも影響を及ぼすだろう。その時、ほくそ笑むのはクリミア併合などの動きに見て取れるように、「法を重んじない側」のロシアである。

中国に“反撃”せよ!


 日本は昨年夏に安保法制を通過させたが、国際情勢を見れば、それに続いて憲法改正を急ぐ必要がある。これからの国際社会では、警察力、軍事力の双方で多国間の協力システムが作られていくだろう。日本だけが「ここから先はできません」と憲法を理由に動かないわけにはいかない国際情勢が出現するだろう。何にもまして、東シナ海が危機に見舞われるとき、多国間の枠組みによって守られるのは日本である。
米大統領選の結果を受け、トランプ氏について発言する安倍晋三首相=11月9日午後、首相官邸(斎藤良雄撮影)
米大統領選の結果を受け、トランプ氏について発言する安倍晋三首相=11月9日午後、首相官邸(斎藤良雄撮影)
 こうした軍事協力の枠組みを構築しながら、日本は二十一世紀の国際社会の価値観も、自信を持って提唱するのがよい。「法の支配のもとの繁栄」を謳いあげ、国際法に基づく国際秩序を守ることこそが二十一世紀の世界にとって何よりも重要だとの理念を、日本が先頭に立って説くのである。

 これこそが、中国の覇権を支える「三戦」(心理戦、世論戦、法律戦)を逆手に取った、中国が最も苦手とする最大の“反撃”となるに違いない。

さくらい・よしこ ベトナム生まれ。米ハワイ大学歴史学部卒業後、「クリスチャン・サイエンス・モニター」紙東京支局勤務、日本テレビ・ニュースキャスター等を経て、現在はフリージャーナリストとして活躍。『エイズ犯罪血友病患者の悲劇』(中央公論社)で大宅壮一ノンフィクション賞受賞、『日本の危機』(新潮社)など一連の言論活動で菊池寛賞を受賞。近著に『日本の敵』(新潮社)、『戦後七〇年 国家の岐路―論戦2015』(新潮社)など。