騒然となった海軍人事


 習政権は昨年末から今年はじめにかけて実施した軍改革で、長年、伝統がある軍中枢部門を構成する「四総部」と呼ばれた総参謀部、総政治部、総後勤部、総装備部を解体し、その機能を「連合参謀部」 「政治工作部」 「訓練管理部」 「国防動員部」など十五の部局に分散した。軍権を細かくわけることで、軍トップである習氏が全面掌握を進めたい狙いがあるといわれる。
(AP)
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 しかし、この改革の評判はよくなかった。「会社でいえば、四人の部長を全員解任して、社長が直接十五人の課長に指示を出すシステムになったようなもので、全体像が見えるのは社長一人だけとなり、現場は大混乱している」といった声が聞かれた。

「演習に複数の上将が参加したのは、各部門の代表がいないと組織を動かせなくなった事情があるからだ」と軍事に詳しい中国人ジャーナリストは説明した。

 昨年までなら、このような演習は南海艦隊の司令官が陣頭指揮をとり、北京にある海軍司令部を通じて各部署との調整を行えばよかったが、組織機能が細かく分散してしまったため、そうしたことがしにくくなったという。

 四人の上将のなかで最年長は、海軍司令官の呉勝利氏だ。習近平氏と同じく、元党高級幹部を父親にもつ太子党の一人として知られる。今年で七十歳、すでに定年を過ぎているが、習氏には信用して任せられる人材がほかにいないため、何度も引退時期を延期した経緯がある。

 副参謀長の王冠中氏は北京の中央軍事委員会本部との調整役で、南部戦区司令官の王教成氏は海南島などにある陸、空軍基地との調整役を務めた。しかし、四上将のうち海軍政治委員の苗華氏の役割については「分からない」と首を傾げる人が多く、さまざまな憶測がある。

 共産党の軍隊は、司令官と政治委員のツートップ制を採用している。司令官は軍事訓練など、政治委員は人事や思想教育などを担当する。苗氏が演習に参加したことは、会社の人事部長が営業の現場に出てきたようなもので、違和感を覚えた人が多い。

 苗氏は福建省に駐屯する陸軍三十一集団軍の出身で、若い時に同省に勤務した習近平氏と交流があったため、ここ数年、最高指導者の側近としてにわかに出世した。海軍の経験が全くないにもかかわらず、海軍政治委員に任命されたため、人事が発表されたときに一時騒然となり、大きな反発も起きたという。

 苗氏は赴任してから一年半が過ぎたが、いまだに部下から警戒されており、海軍内で浮いた存在だといわれる。今回の演習は自ら希望して参加したというが、その目的について「自分自身の露出度を増やして存在感を示すほか、習氏の目付役としてほかの将軍たちを監視する役割があるのではないか」と囁かれている。 

 このような憶測があることは、組織として異常。習近平氏がいまだに多くの軍幹部を信用しておらず、軍幹部たちもまた習氏に対して大きな不信感を抱いていることが窺える。