日米ともに雇用状況は「完全雇用」に近い水準だが、まだそこに到達していないと思われる。日本では失業率は3%、有効求人倍率など高水準で推移しているが、インフレ率でみると消費者物価指数(総合)ではマイナス0.5%であり、その他の指標でもデフレのもたらす負のリスクが極めて高い状況だ。

 他方でアメリカ経済は雇用状況がやはり堅調だが、日本と違うのは、どの物価指数をみても1%を上回るインフレ域にあることだ。ただしアメリカ経済でも「完全雇用」には遠く、またインフレ目標になかなか到達できないのはそのためであるという主張もある。そもそもトランプ氏が広範囲な支持を集めたのは、経済の低迷感が米国民に広く共有されていて、その打開策をもっていると期待されたからではないか、という説が有力だ。

 フランスの社会人類学者であり、経済問題の発言も多いエマニュエル・トッド氏は、トランプ氏に対して米国民の求める景気浮揚の経済政策への熱望があったとして、勝利の可能性を早くから指摘していた。つまり大衆迎合的な政策ではなく、米国経済の現状(経済低迷の長期化による生活水準の全般的低下)を改善する、ケインズ的な経済政策をトランプ氏なら採用するだろう、という国民の期待である。

 実際にトランプ氏の大統領選勝利演説では、インフラ投資を中心にしたケインズ型の財政政策が全面に出ていた。さらに彼はこの財源を増税ではなく(むしろ減税をトランプ氏は志向している)、国債の借り換えを中心に行うことも言明していた。

 ところでやや専門的な話になるが、経済活動を考えるキーワードに「自然利子率」というものがある。これは実際に観測できるものではなく、完全雇用をもたらす均衡利子率というものである。消費や投資が完全雇用を満たすだけの水準になっているときに、この自然利子率は成立している。計測には専門的な手法が必要だ。またその計測手法によってふり幅がかなり大きいことも知られている。

 米連邦公開市場委員会(FOMC)の多数派の認識は、金利引き上げスタンスを採用している。この金利引き上げスタンスの背景には、米国経済の正常な金利は、この自然利子率の水準であり(言い換えれば米国経済は完全雇用に達しているという認識)、そのため市場利子率を引き上げることが望ましいということだ。仮に現実の経済が自然利子率にあって、市場利子率がそれを下回ったままだと累積的にインフレ率だけが上昇していき、経済的損失が発生する。このFOMCの認識は、トランプ氏の経済認識とは乖離があるだろう。