サター氏はさらに付け加えた。

「今回の尖閣へのエスカレーションは規模だけから見ても習近平国家主席が完全に認知しての大胆な動きだ。中国は9月上旬の杭州でのG20サミットまではこうした国際的に対決的な行動は取らないだろう、という一部の観測は見事に外れたようだ」

 中国側の今回の対日大攻勢の動機が少なくとも一部には国内向けの示威だとする見解は、アメリカ海軍大学の中国海洋研究所ピーター・ダットン所長からも示された。

「第1に、中国指導部が最近の国内経済の停滞やその他の国内的弱点の悪影響の広がりを懸念して、中国の国民に海洋での拡張能力の強化を誇示することで前向きな国家意思の強さを示すという計算が考えられる」

 ダットン氏はそのうえで、国際仲裁裁判所の裁定への激しい反発を中国の第2の動機として挙げた。この点もサター氏の見解と一致する。ただしダットン氏は慎重な注釈を加えた。

「この裁定への怒りをぶつけるようなかたちで国際社会全体との対決も辞さない、という中国のいまの言動パターンがあくまで怒りや対決を土台とする衝動的な反応なのか、あるいはじつはもっと計算され、今後は持続的な中長期の戦略となるのか、まだ判断は下せない」

 アメリカ海軍大学は、米海軍の少佐以上の将校らに大学院レベルの教育を供するとともにアメリカの安全保障や防衛に関する調査、研究を常時、進めている。中国海洋研究所はその大学の一部として2006年に新設された。ちょうど中国の海洋活動が無法性を滲ませながら膨張を始めた時期である。同研究所は中国の海洋活動を専門に分析する機関としてはおそらく世界でも唯一だろう。

 海軍パイロット出身でその後に法律や安全保障を学んで法学博士号を有するダットン氏は同研究所の発足の翌年に研究員となり、2011年には所長となった。中国の海洋戦略に関しては全米でも有数の専門家とされ、議会での証言や論文の発表も多い。

 ダットン氏は中国側の狙いについて、興味ある指摘をした。

「今回の動きは明らかに日本を威圧する新たなエスカレーションで、中国が南シナ海でフィリピンなどに対して取った、いざとなれば軍事行動をも辞さないというふうな強硬作戦だといえる。中国のその当面の狙いは、日本を尖閣諸島の領有権をめぐる日中二国間の協議へと引き出すことだろう。いまのエスカレーションが嫌なら、中国との二国間の協議に応じろ、という威圧だともいえる」

 尖閣諸島の領有権をめぐる日中二国間協議などという事態が起きれば、それだけで中国側の大きな勝利となる。周知のように日本政府は尖閣が日本固有の領土であり、領有権紛争などそもそも存在しないという立場を堅持しているからだ。二国間協議というのはその日本側の立場の崩壊である。