日本の施政権が根本から揺らぐ


 中国側の狙いをもっと俯瞰するように指摘したのは、同じ海軍大学の教授で中国海洋研究所の研究員トシ・ヨシハラ氏だった。

「中国のこうした活動拡大はたんに日本や日中関係への影響だけでなく、東シナ海全体でのパワーシフトを進めるという意図を示す点を最も懸念する」

 この場合のパワーシフトとはもちろん中国の力が強くなるシフトのことだった。中国のパワーが東シナ海全体で広がり、強くなることへの懸念である。中国による東シナ海の覇権志向という意味でもある。

 ヨシハラ氏は名前のように日系アメリカ人である。高等教育はすべてアメリカで受け、タフツ大学で博士号を取得して中国の軍事戦略、とくに海洋戦略を専門に研究してきた。ランド研究所などに所属した経歴がある。同氏は日本人の父親の職業の関係で、台湾で暮らした時期も長く、中国語が堪能だという。

 ヨシハラ氏は中国側の狙いについてさらに語った。

「中国はまず尖閣海域に恒常的な存在を確立して、日本側の施政権を突き崩そうとしている。尖閣上陸も可能な軍事能力を築きながら、日本側の出方をうかがっているわけだ」

 施政権というのは尖閣問題ではきわめて重要である。アメリカは日米安保条約の規定で「日本の施政権下にある領土」を守ることになっている。オバマ政権は尖閣諸島が現在は日本の施政権下にあると認めるからこそ、有事のその防衛責務を言明するわけだ。だが尖閣の日本領海に中国の艦艇がいつでも自由に入ってくるとなると、日本の施政権も根本から揺らぐことになる。

「ミサイル配備とオスプレイの増強が欠かせない」


 元国防総省日本部長でいまは民間のアジア安保研究機関「グローバル戦略変容」会長のポール・ジアラ氏も、中国の狙いの日本にとっての危険性を強調した。

 ジアラ氏は米海軍パイロットの出身で、国防総省では長年、日米安保関係の実務を担当してきたが、ここ数年は中国の軍事動向により多い注意を向けるようになったという。

「今回、数百隻も出てきた中国の『漁船』というのは事実上は民兵組織なのだ。皆、人民解放軍の指揮下にあり、一部は武装までしている。この民兵漁船を多数、動員して日本に軍事圧力を掛け、いざという際には尖閣上陸までを狙う中国の手法はきわめて危険だ。日本はまず尖閣諸島の防衛能力を高めねばならないが、いまの事態はアメリカにとっても深刻であり、日米同盟としての対処が必要となった」

 ジアラ氏はそして、アメリカ政府がこれまでの尖閣の主権に対する「中立」の立場を変えて、日本の主張を支持し、尖閣海域で米軍演習を実施すべきだとも主張した。すでに米軍が出動して、その実力を誇示し、中国側の攻勢エスカレーションを抑える時期が来たというのだ。