目前も周囲も見ない「ダチョウの平和」


 では日本は、この国難と呼べる現状に何をなすべきなのか。

 尖閣諸島の防衛や中国の攻撃への抑止へのアピールはフィッシャー氏らからなされたが、アメリカ側の他の専門家からはたんなる防衛増強に限らない対応も提起された。

 サター氏は次のように述べていた。

「日本は尖閣の防衛自体を強化することも必要だが、その備えを中国側に見せるために尖閣周辺での軍事演習をすることも効果的だろう。だが同時に、いま展開している中国の無法を国際的に訴える努力もさらに強めることが望ましい。フィリピン、ベトナム、さらにはインドという中国の威圧的な膨張を懸念する諸国との連帯を強めることも効果があるだろう。中国がいまの無法な攻勢を続ければ、その代償を払わねばならなくなると認識させることが必要なのだ」

 サター氏は中国にとってのそのような「代償」として日本が台湾への支援を強め、アメリカの台湾の安全保障への関与を規定する「台湾関係法」の日本版構想を打ち上げるとか、中国の人権弾圧、少数民族抑圧への抗議に日本ももっと強く同調するなど、からめ手からの中国への反撃をも提案するのだった。

 ヨシハラ氏も日本の対応について慎重に言葉を選びながら語った。

「日本はいま深刻なジレンマに直面したといえる。しかし当面は、尖閣諸島に人員を配置するなど新たな措置を正面からは取らないことが賢明だと思う。中国は日本に『挑発行動』を取らせたいと意図している気配があるからだ」

 そのうえでヨシハラ氏は、興味のある対中策を提案したのだった。

「日本はその代わりに、尖閣事態に関しての中国への対抗策として『水平エスカレーション』に出ることも効果があると思う。東シナ海の尖閣諸島への中国の威圧に対して、日本が南シナ海での中国の海洋膨張行動に対し、アメリカなどと協力して積極的に安全保障行動を取るという戦略だ。この対応は尖閣諸島での垂直エスカレーションを試みている中国の挑発を巧みに逸らすことを可能にするかもしれない」

 日中両国が尖閣諸島をめぐる対立で新たな措置を尖閣を舞台として取れば、垂直なエスカレーションとなる。だが、日本が尖閣からは離れた南シナ海での中国の膨張抑止という措置に出れば、中国に対する水平エスカレーションになる、というわけだ。

 これらアメリカ側の5人の専門家たちに共通するのは現在の尖閣諸島をめぐり、中国側の新たな動きによって起き始めた新事態が日本の国家安全保障にとっても、また日米同盟にとっても、アメリカの対外政策にとっても、きわめて深刻だと見る認識だといえよう。とくに日本にとっては目前に迫った危機だとするアメリカ側の認識でもあった。
 こうしたアメリカ側の対応に比べると、日本はアベノミクスの是非論に忙殺され、東京オリンピックへの夢に酔い、日本という国家の土台となる国家安全保障には官民ともに、なんとリラックスした姿勢のままでいることか、と痛感させられる。そして、いまの日本国民が享受する平和が目前も周囲も見ない「ダチョウの平和」つまり敵が近づくと、それを見ずに、頭を砂に突っ込んでしまうダチョウのような反応ではないことをついつい切望してしまうのである。