ファンの不安な思いに沿うように、大一番では硬くなり、体が動かない。いつもの稀勢の里らしさが影をひそめるのだ。「大きな体に、ノミの心臓」と言われても仕方がない。年間最多勝に輝き、4度も準優勝しながら優勝に届かず、綱取りもできない現実は、裏を貸せばその勝負弱さゆえの結果だ。

 なぜ稀勢の里は実力がありながら大勝負に弱いのか? 来場所、どうすれば綱取りを果たせるのか?

表彰される年間最多勝の稀勢の里=福岡国際センター
表彰される年間最多勝の稀勢の里=福岡国際センター
 答えは簡単ではないが、稀勢の里へのエールも込めて考えてみたい。実はこのテーマ、稀勢の里だけでなく、現代日本のスポーツマンの多くが抱える共通の課題でもある。

 こうすればいい、と偉そうに語る前に、プレッシャーを感じて解決できない力士や選手たちの多くがしていることを検証しよう。

 すっかり定着した解決法は、ネックレスやブレスレッド、磁気テープなどを身につける方法。野球や駅伝などでは、こうしたグッズを身にまとう選手が数多く目立つ。見苦しいとの批判も多いが、選手たちはその効用に頼っている。お相撲さんは残念ながら、回しひとつで土俵に上がるため、この方法には頼れない。腕や足に巻くテープの下に磁気テープなどを偲ばせることはできるが、ネックレスやブレスレッドはご法度だ。

 表には出ないが、占い師や霊能者に相談に行く力士、選手もたくさんいる。あとは、ゲン担ぎ、願掛け。勝った時にしたことと同じことをする。国技館に行く道順、着る浴衣、食べるものなど。

 稽古や練習ですることはといえば、猛稽古、猛練習、単純な練習を何度も反復して無心になる、といった方法は古くから行われている。合理的とは言えないが、案外無駄でもない。もちろん最近では、心理学者や心理療法士の指導やカウンセリングを受ける方法も実際に日本代表クラスの現場で採り入れられている。

 さて、こうして並べて、読者にはどんな解決法が見えて来ただろうか? 勝負に弱いのは、不安に支配されるからだ。不安で、悪いことを思い描いてしまう。その不安が体も縛り付け、動かなくなる。稀勢の里はその典型だろう。不安は裏を返せば「期待」と背中合わせだ。大きな期待を抱いた時、つまり、「この勝負に勝てば優勝だ! そして横綱昇進だ!」という期待に素直に燃えて土俵に上がれば何の問題もないものを「オレに勝てるだろうか」「オレなんか、優勝するに値する力士だろうか」「横綱の器か? 横綱の重責が務まるか?」等々、先にあれこれ考えて、がんじがらめになってしまう。