今日のロシアの指導部は、古典的な原理で動いている。すなわち、平和を願うなら戦争の準備をせよ、という原理だ。プーチンは14年半ばにロシアの安全保障会議で、幸運にもロシアは如何なる同盟にも属さない、すなわち、我々には同盟国は不要だと述べた。(「論拠と事実」15年12月9日~15日)


ロシアの伝統的心理法は方便、勝てば官軍


 同盟国不要論だけでなく、ロシアは敵国に包囲されているという心理も、ドーピング問題でのプーチン発言にはっきり表れている。ロシアの国ぐるみのドーピングで同国選手のオリンピック出場が禁止・制限されたことに関しプーチンは激怒し、これは欧米諸国による反ロシアの政治行動(陰謀)だと強く非難した。そしてロシア国内では、ドーピング関係者ではなく、ロシアの不正行為の情報を国外に漏らした者が「裏切り者」となった。

 以上の説明だけでも、今のロシア指導部の心理は、帝政時代の保守派とほとんど変わらないということが明白になる。

 ドーピングに関連して、もう一つ注意すべきことがある。それは、ロシアの伝統的心理においては、法とか規則は単なる方便で、それらを潜り抜けるのが生活の知恵だと民衆は心得ていることだ。そしてどんなに法を潜っても、成功さえすれば「勝てば官軍」なのだ。

 最近ロシア国内では、経済悪化でインフレが進み、実質的所得・年金は減少し、腐敗・汚職は減らず、コネや賄賂がないとまともな職にもつけず、社会は閉塞状況だ。にも拘らず政権のプロパガンダで、国民はクリミア、シリアなどの「地政学ゲームでのプーチンの勝利」に酔っていた(今その熱はやや冷めつつあるが)。独立系のロシア紙は次のようにそれを説明する。

 この地政学ゲームは勝てば官軍、負けたら排除で、何らの規則や規範にも縛られない。つまりロシア人の理解では、勝てば全てが許される。こう考えるのは、現在のロシア社会において人々が嫌と言うほど思い知らされているからだ。官僚が好き勝手をし、国民は全く無視されている。本来は憲法とか法律が社会秩序を形成する。しかしロシア国民はそれらを全く無視する。というのは、法律・規則などは実生活では、都合よく利用すべき手段に過ぎないからだ。

 昔から、「法とは馬車の長柄のようなもの、どちらにでも御者が向けた方に向く」という諺があるが、レバダセンターの世論調査では、国民の82%がその通りだと認めている。(「独立新聞」15年7月21日)