また、今年2月、オバマ大統領が電話で首相に、ソチ訪問につき時期を考えるよう再考を促したが、これも強く拒否した。


「ヒキワケ」発言はまやかし プーチンに決断の意思はない


 では、ここまでして強行したソチ会談後、ロシア側の態度は変化したか。会談前の4月14日、プーチンは記者会見で、平和条約問題の「妥協策を見出すためには、継続的に絶えることのない対話を行う必要がある」と述べた。彼は12年3月に柔道用語の「ヒキワケ」「ハジメ」を使い、両国外務省に話し合いの「ハジメ」の指令を出そうと述べ、次官級会議も設けられた。しかし領土交渉は、クリミア事件前の日露最友好期も含めて、1センチメートルも進んでいないどころか大幅に後退している。

ロシアが反故にする北方領土に関する取り決め (出所)各種資料をもとにウェッジ作成
ロシアが反故にする北方領土に関する取り決め
 (出所)各種資料をもとにウェッジ作成 
 両外務省はこれまで数十年、議論すべき事はし尽くした。残るは、両首脳、特に大統領としてのプーチンの政治決断のみだ。しかし彼の提案は、ひと事のように「絶えることのない対話」だけだ。彼には政治決断の意思もその力もない。

 プーチンは05年9月に「第2次大戦の結果南クリル(北方4島)はロシア領となり、国際法的にも認められている」と述べた。これを受けロシア外相も「第2次大戦の結果」を認めないと平和条約交渉は一歩も進まない、との強硬論をソチ会談前もその後も繰り返している。6月に訪日したナルイシキン下院議長も同じだ。ラブロフは今年1月、平和条約締結と領土問題解決は同義ではない、とこれまでの両国の交渉を全否定する発言もした。

 プーチンは、ソチ会談後の5月20日の記者会見で、経済協力と領土問題の切り離しに成功したのか、との質問に、「一方を他方と結びつけない」と2回も強調した。つまり、領土交渉と関係なく、経済協力のみを発展させるという意味であり、両者を共に進展させるという日本の立場を真正面から否定するものだ。

安倍首相の想いとは裏腹に遠ざかる北方領土


 01年のイルクーツク声明や03年の日露行動計画などプーチンが大統領として署名し幾度も認めた「択捉、国後、色丹、歯舞群島の4島の帰属問題を解決して平和条約を締結する」との東京宣言を、プーチンは完全に反故にしようとしている。この合意は領土問題を認め、それを解決することを謳ったもので、けっして強硬論ではなく中立的な立場の合意だ。

 日本政府は対露政策の基本として、両国の合意をロシアが一方的に反故にするのであれば、経済その他の面での協力には自ずと限界があるという意思を、明確に示すべきである。

 安倍首相が北方領土問題すなわち国家主権侵害問題の解決を対露政策の最重要課題としているのは、主権国家の首長として正しい。毅然たる姿勢を示すことは、わが国の対外政策、安全保障政策全般にとって重要だ。焦らず長期的な視点から対応すべきである。