プーチン、安倍会談


 航路支援申し出の約3週間前、日ロ間では大きな出来事が起こっている。ロシアのソチで5月6日に行われた、プーチン大統領と安倍晋三首相の会談だ。9月に開かれるロシア極東での経済フォーラムに安倍首相が参加する見通しとなり、経済協力の機運は高まっていた。

 プーチン政権にとって、人口が少なく経済が立ち後れている極東地域のテコ入れは大きな課題だ。極東の看板都市は9月のフォーラム会場にもなるウラジオストクだが、ほかの地方にも種々の特区を設置するなど極東全体の経済振興に力を入れるのが政権のスタンスだ。その分、各知事は実績づくりのプレッシャーにさらされている。ロシア国内で最も日本に近いサハリン州においては、両国間の交通インフラ整備は格好のアピール材料の一つとなる。

 しかしコジェミャコ知事はサハリンに来てからまだ1年強しかたたず、航路について詳しいわけではない。そこで同知事は稚内市に対して5月下旬、航路の現状・課題についての説明を求めた。州政府を尋ねた現地駐在の稚内市職員からレクチャーを受け、支援を即決する。
コジェミャコ知事と高橋知事
コジェミャコ知事と高橋知事
 知事のトップダウンにより、部下も浮き足だった。6月3日、コジェミャコの決定から数日後に開かれた北海道―サハリン官民定期会合で、州政府幹部が「航路を7月15日に再開する」と明言。実はまだ日程はおろか事業スキームも話し合っていない時点のフライング発言だがロシア側メディアでそのまま報じられた。「寝耳に水。いったい何のことを言っているのか」。稚内市や北海道庁などに混乱が広がった。実際には2週間強遅れて8月1日の初運航となる。

 関係者間で事業計画が正式にまとまり、調印したのは7月4日。運航経費をロシア側と日本側で折半する内容だ。ただ日本側には船の安全性に疑問を抱く声も多く、また、運航主体があくまでロシア企業であって日本側のコントロールが及ばないことを不安視する向きもある。日本側の三セクの社長を務める藤田幸洋・藤建設社長は、「航路再開に向けては、ロシア側が支援すると言っている今が千載一遇のチャンス。今できることをやらなければ来年や再来年にどうなるかわからない」と語る。

 船は週2往復で、9月16日までに計14往復を運航予定。乗客数は1000人を目標とする。「あまり利用者が少ないようだとロシア側が協力をやめる懸念もある」(地元行政関係者)。実質的にわずか2カ月程度で就航したためPRが後回しになっており、関係者は乗客確保に躍起になっている。

 復活した稚内サハリン航路は、日ロ地域間経済協力のモデルケースとなるのか、短期間で破綻して失敗事例の一つに加わるのか、予断を許さない。