ロシアは世界支配の野望は持たない。そして冷戦時代の軍拡競争が経済を弱化させた教訓も覚えている。加えて、軍需産業はこの20年間で弱体化しているし、今後もGDPの4.2%(15年)にも上る大きな国防予算を維持することは難しい。国民は、軍のおかげでロシアの国際的地位が上がったのを歓迎しつつも、それが自分たちの生活に響くとなれば、黙ってはいないだろう。ロシアは専制主義国家だが、国民の支持があればこそ権力を維持していられる。

出典:Dmitri Trenin,‘The Revival of the Russian Military’(Foreign Affairs, May/June, 2016)

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兵力不足に悩むロシア


 この論文は、論点を尽くし、米ロ双方の主張の間でのバランスを維持しており、賛成できます。あえて、日本にとって意味のある諸点を指摘すれば、次のようなことが言えるでしょう。

 ロシアでも若年人口は減っており、ロシア軍は徴兵制を取っているにもかかわらず、兵力不足に悩んでいます。徴兵は1年しか就役しないため実戦には使えません。従ってシリア等での実戦では、契約に基づく「職業兵」が使われています。しかし、その数も限られているので、ロシアは長期戦、二正面作戦はできません。

 この論文が指摘しているように、ソ連崩壊後の20年間に軍需企業からエンジニアが多数去った後遺症は、今でも残っています。T-14戦車、S-400対空ミサイル、極超音速弾頭等優れた兵器も開発されている反面、米国が進めようとしている「軍の無人化」では後れをとっていくことでしょう。

 極東方面で問題となり得るのは、(1)シリアで「実験した」新型中距離巡航ミサイルX-101(射程5500km)が核弾頭付きで極東に配備される場合、(2)太平洋艦隊が大幅に増強され、中国艦隊と連携して動く場合、が考えられます。

 それでも、安全保障面でのロシアの注意は西方、南方に向けられており、上記①②がなければ、極東におけるロシア軍は、カムラン湾へのロシア艦寄港等、日本にとってはマイナーな意味しか持ちません。日本にとっての脅威は、そうしたことより、中国が建設中の空母2隻のほうがよほど重大です。