米国領土を狙う中距離と長距離の弾道ミサイルも完成段階に近づく。北朝鮮の核ミサイル脅威は、韓国次期政権の任期内には確実に煮詰まって焦げ臭くなる。

 その時機での親北左派政権の登場が好ましいはずはない。北朝鮮への国連制裁が強まる中で、さしもの左派政権も秘密送金などの露骨な対北支援はさすがに難しいだろう。

 とはいえ、人道をうたい文句にした経済援助の再開や中国へのすり寄りに動くのは疑いない。つまりは日米韓の安全保障の三角同盟は足並みが乱れる。

 だが、筆者はそれほど心配していない。世に「禍福はあざなえる縄のごとし」「万事塞翁が馬」のことわざあり。その段で、韓国での親北左派政権の誕生は、北朝鮮核問題の解決で、肯定的な意味での転換点となる可能性があるからだ。

 北朝鮮の伝家の宝刀は「ソウル火の海」戦術だ。米国との軍事的緊張が高まると、北朝鮮は決まって「ソウル火の海」発言を繰り出す。ソウルを北朝鮮軍自慢の長距離砲弾をソウルに雨あられと降らせて焦土化する、という脅迫だ。

 例えば、第1次核危機(93年)の際には、この「ソウル人質」作戦が功を奏した。クリントン政権は韓国政府(金泳三政権)の猛反対に遭い、北朝鮮爆撃作戦を撤回する煮え湯を呑んだ。

 ところが、その後の歴代左派政権の時には発言を慎んだ。金大中と盧武鉉の両政権は「平壌のATM(現金自動支払機)」とやゆされた。親北政権を窮地に追い込むのは得策ではない。「ATM」は焼き払うには余りに惜しい。

 そう考えると、核ミサイル問題が煮詰まった時点で、韓国での親北左派政権の誕生は、北朝鮮にとっては「痛し痒し」の面がある。「ソウル人質」作戦の効能が落ちることだ。
朝鮮中央通信が報じた、北朝鮮による潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の試験発射(朝鮮中央通信=共同)
朝鮮中央通信が報じた、北朝鮮による潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の試験発射(朝鮮中央通信=共同)
 理由は二つだ。一つは、北朝鮮との内通疑惑の火種を抱える文在寅政権相手に、「ソウル火の海」の脅し文句は決めにくい。もうひとつは、文在寅政権が日米韓三角同盟から脱落すれば、日米両国にとってソウルは「人質」ではなくなる。

 それでなくも米国のトランプ次期大統領は「アメリカ第一」を掲げる。北朝鮮が中・長距離の弾道ミサイルを完成させれば、トランプ政権は自衛的な先制攻撃を真剣に検討するだろう。その時にソウル人質作戦が通用しなければ、北朝鮮は最大の体制危機を迎えることになる。

 その前に、北朝鮮は新たな「人質」を急いで探し求めることになる。「東京を核ミサイルで火の海にする」という人質作戦を繰り出す公算が高い。