米国における白人中間層は、四半世紀を通じたPC運動による意識改革を迫られ、弱者是正の標的となり、グローバリズムの犠牲者となってきた。そもそも、将来的に少数者になることが確実視されている白人を、弱者是正を理由に形式的に不公平に取り扱い続けることが現在においても実質的に公平なのかはもはや疑問というべきであるし、経済的現状をみても彼らの中には経済的弱者として保護されるべき者が多い。また、国家元首である大統領がグローバリズムに染まって国家や国民の利益を第一としないこと自体おかしなことであろう。

 米国は、今一度形式的公平に立ち返るなり、条件の平等性(レベル・プレイング・フィールド)のあり方について根本的な議論をするなりして、公平さと法の支配を取り戻すべきである。

 今回の選挙においてグローバリズムや弱者保護のあり方はもともと論点であったろうが、PC運動自体に異議を唱えたのは、様々な暴言として非難を受けたトランプ氏のみであった。しかし、既存の政治家の枠を超えた彼のPC運動に対する問題提起は正しいものであるし、ヒラリーを含む既存政治家の腐敗を追及するなど体を張って挑戦し続ける彼の態度は、信念に基づくものとして多くの疲弊した米国民の支持を受けた。他の候補よりも多くの支持を受けたのは当然の結果であった。

トランプ次期米大統領
トランプ次期米大統領
 大統領選の結果を受けてニューヨークやカリフォルニア州では抗議集会が開かれ、国外に脱出すると言ったり、カリフォルニア州を独立させようという人たちまでいるが、トランプ氏は差別助長を訴えているわけではない。米国は人種からして多様な国であり、差は現にあるものであって、公平さのあり方は状況によって変わりうるものである。また、不法移民に対処するのは国家として当然のことであるし、国民の福祉を充実させるためには難民や移民の受け入れに限界が生じる。勝利宣言の内容やニューディール的な政策への言及をみても、トランプ氏が国民全体を第一として非差別的に中間層を救済する施策を目指していることは明らかなように思われる。また、イスラムとの関係でいえば、表面上の軋轢を離れて根源的に考察すれば、PC運動とイスラム的価値観との対立がこれまでの軋轢を生んでいたのであって、むしろヒラリーよりもトランプ氏の方が多様性をもとにした融和につながりやすいとも言い得る。

 PC運動などを巡る今回の対立は、すでに一定程度PCな世界で育ったミレニアム世代には実感のわかないものであったに違いない。ヒラリーは彼女の運動が成果をあげたがゆえに時代遅れとなっていたのであって、選挙不正や違法行為に手をそめるまでもなく女性大統領はいずれ誕生するであろう。

 また当選後の抗議運動は、12月19日の選挙人投票日での逆転を目指したヒラリー支持者達が核となり、これに不法移民やその家族による抗議やミレニアム世代の同情が加わったものと思われるが、うちミレニアム世代については、今まで育った価値観からの離脱に対する彼らの戸惑いを示すものにすぎず、どのような価値観に向かっているのかを明示することによって落ち着きを取り戻すことが可能だろう。

 トランプ氏は、20年以上前から大統領選への出馬を噂される存在ではあったが、政界では異邦人であって課題は多く、既存政治家達の壁もあるだろう。しかし、就任前から米国内の雇用確保において成果をあげる一方で、台湾の蔡総統との電話会談を行うなど、型破りな手法は健在である。足枷を全く受けていないトランプ新大統領による斬新な政策が楽しみである。