最後に孫家の墓所に行ってみた。墓所では地元職員や記者らしき人間が待ち構えていた。私も様々な取材をしてきたが、こんな“VIP扱い”されたのは初めてである。しばらくすると黒塗りのハイヤーまで到着し、ますます芝居じみてきた。車から下りてきた男は、ハンナラ党(現セヌリ党) の地元区長だという。

「私は孫社長の故郷が大邱と知って以来、地域の人と孫家の墓所の草むしりをしている。彼は世界的人物だが、どんな有名人でも故郷は大切だ。ぜひ彼の故郷訪問を実現させてくれないか」

 これほど露骨な有名人へのすり寄りは、いっそ微笑ましかった。だが、翌日の大邱の新聞に、「孫正義会長取材陣、大邱到着」という仰々しい見出しが付けられたのには絶句した。

 記事には、「大邱市では、孫会長が故郷を訪問する場合、曾祖父の墓から大邱空港までの道路を『正義路』と名付け、盛大に歓迎する」といった孫の遠縁の言葉まで紹介されていた。

 田舎政治家らしいパフォーマンスといい、「正義路」という臆面のないネーミングといい、冷淡なソウルの反応と対照的な熱の入れようである。これだけのラブコールがあれば、孫の故郷訪問も近いのではないか。そのときは一瞬そう思った。

 帰国後に孫正義の父・三憲にこの話をすると、「どうせ金くれちゅうこっちゃろが」とニベもなかった。三憲が、パチンコ業で財をなしたとき、故郷から数千万円の無心があったという。三憲の口ぶりからは、韓国人に在日がどんな辛い思いをして金を稼いできたかわかるか、という口惜しさがストレートに伝わってきた。孫正義の故郷訪問に対しても、大邱の地元企業への投資を期待していた可能性が高い。

 これだから朝鮮民族にはかなわない。別に悪口でいっているわけではない。孫のことをあるときはクールに、あるときは故郷の英雄のように祭り上げ、その裏でこっそり金をせびる。
会談を前に握手するソフトバンクグループの孫正義社長(左)と韓国の朴槿恵大統領=9月30日、ソウルの青瓦台(聯合=共同)
会談を前に握手するソフトバンクグループの孫正義社長(左)と韓国の朴槿恵大統領=9月30日、ソウルの青瓦台(聯合=共同)
 これが中国大陸にへばりつき、海のすぐ向こうに日本という経済大国を望むという地政学的な悪条件の下で、数多の試練を乗り越えてきた彼らの強さの原動力となっているのだろう。

 ただ、一点気になるのは、彼らが僑胞(キョッポ、*)の歩んだ苦難に無関心な点である。アジア一の経営者となった孫正義の光の部分ばかり注目し、その影を見ようとしないのは、虫が良すぎる。歴史を忘れた民族は、いつかしっぺ返しにあうことを肝に銘じなければならない。

 この教訓は、無論、日本と日本人も例外ではない。

(*在外韓国人の韓国側の呼び方)

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