日本国民はみな、もちろんわたし自身も含めて「アメリカは真珠湾攻撃を卑怯だと怒り、リメンバー・パールハーバーと称して今も忘れず、だから原爆投下も正当だと主張している」と教わってきた。世代を問わない。現在もそのように教えている。

 ところが当の攻撃を受けた現場では、逆転がある。たとえばビジターセンターの記念館では、空母赤城を膨大なコストを掛けて精密に復元し、その先進性を文字通り絶讃している。乗組員は、白いスカーフの戦闘機乗りだけではなく車輪に屈む作業の水兵までフィギュアで大変な数を一体、一体、丁寧に再現し、そこには深い尊敬が隠しようもなく表れている。

 この隣には、沈められたアリゾナの模型がある。こちらは格段の差がある、やや粗雑な模型であり、フィギュアはたった二体、艦長と水兵だけである。背後の解説パネルでは、その戦略思想の古さを自ら徹底批判している。ここで反省をアメリカの若者にも世界の誰にも見せ、「反省したからこそ半年後のミッドウェー海戦で勝ち、祖国を護った。失敗をこそ活かせ」という真意なのだ。

 アメリカ政府が建て、運営するこの展示館の説明は「日本の資源輸入路をアメリカが封鎖したから日本は戦わざるを得なかった」(原文は英語)と開戦の理由を語り、日本の軍国主義とか侵略といった表現は無い。

 そしてミズーリには、特攻で上半身が千切れて甲板に転がった日本の若者を戦中にアメリカの正式な海軍葬で弔った事実が展示されている。

 同じ思想の展示である太平洋航空記念館でわたしは、九十四歳のディック・ジロッコという真珠湾攻撃当時の米兵と会い、その英語の対話をそのまま拙著の巻末に収録した。彼は「日本軍は民間人を狙わなかった」と明言し、「攻撃は見事だった」と語った。
真珠湾の戦艦ミズーリとアリゾナ記念館=ハワイ・オアフ島(鈴木健児撮影)
真珠湾の戦艦ミズーリとアリゾナ記念館=ハワイ・オアフ島(鈴木健児撮影)
 わたしは安倍総理に拙著を渡し、こう述べた。「ほんとうはこれら三箇所も回って欲しいのです。しかし無理は言いません。せめて、総理の動線にもっとも無理のないビジターセンターの展示館は見てください」。

 総理は「見ましょう」と約束してくれた。その後、官邸の要人から「総理は熱心にあの本を読まれて、日程に組み込むよう指示されましたよ」と聞きつつ、わたしなりに外務省と交渉を重ねた。

 そしてオバマ大統領との共同声明を発する直前に、この展示館をも訪ねる日程が内定した。ところが「マスメディアを入れない」という奇妙な振り付けになっていたから、それも正して、メディアが取材できるようにした。あとは総理が何を語り、メディアが何を伝えるかとなった。

 そして安倍総理は、真珠湾で海風に吹かれながら述べたステートメント(所感)で謝罪はせず、日米の和解と同盟強化がたった今、世界に新たな価値を生むことを語った。オバマ大統領との最後の首脳会談で、中国の空母艦隊の西太平洋と南シナ海への進出を懸念することを提起し、中国に融和的だったオバマ大統領の同調を引き出したことも大きい。中国に厳しいトランプ次期大統領にも伝わる。

 ビジターセンターの展示館視察を伝える報道ぶりがフェアなものとなれば、日本国民は「日本軍が卑怯なことをした」という刷り込みを脱することができる契機を摑むだろう。その先にあるのは、対等な真の日米同盟への可能性である。

 もはや右でも左でもなく、思い込みのない客観的な事実によって歴史、先人の苦闘を辿(たど)りたい。余談を申せば、真珠湾も、ほんとうは湾ではなく真珠港である。