主人公は、事故で過去5年の記憶を失った家路久(木村)。なぜか妻(上戸彩)や息子の顔が白い仮面に見えてしまう。彼らへの愛情にも確信がもてない。その一方で、元妻(水野美紀)と娘に強い未練をもつ自分に戸惑っている。

 原作は石坂啓の漫画で、仮面が邪魔して家族の感情が読み取れないというアイデアが秀逸だった。その不気味さと怖さはドラマで倍化しており、見る側を家路に感情移入させる装置にもなっていた。

 自分は元々家庭や職場でどんな人間だったのか。なぜ結婚し、離婚し、新たな家族を持ったのか。知りたい。でも、知るのが怖い。そんな不安定な立場と複雑な心境に陥ったフツーの男を、木村拓哉がキムタクを封印して誠実に演じたのが、このドラマだ。

 何より木村が、夫であり父でもあるという実年齢相応の役柄に挑戦し、きちんと造形していたことを評価したい。今後は、顔の細部を動かすようなテレビ的演技だけでなく、たたずまいも含め、全身で表現できる役者を目指してもらいたいと思う。

 年明け早々に始まる医療ドラマ、TBS日曜劇場『A LIFE〜愛しき人〜』が、旧来の“キムタクドラマ”の延長にあるのか、それとも“木村拓哉ドラマ”の確立となるのか。当面の試金石だろう。

俳優・草彅剛とMC・稲垣吾郎


 木村と同様、俳優としての才能を生かしそうなのが草彅剛だ。2016年1月クールに放送された『スペシャリスト Specialist』(テレビ朝日系)に注目したい。

 無実の罪で10年間服役していた刑事・宅間(草彅)という設定が意表をついていた。刑務所で学んだ犯罪者の手口や心理など、いわば“生きたデータ”が彼の武器だ。

 草彅は、飄々としていながら洞察力に秀でた主人公を好演。また、ひと癖ある上司(吹越満)や、勝手に動き回る宅間に振り回される女性刑事(夏菜)など、脇役陣との連携も巧みだった。

 年明けの1月クール、草彅は『嘘の戦争』(フジテレビ系)で主演を務める。冤罪だった父親のために詐欺師となって復讐を果たす男の役だ。誠実そうな風貌の草彅だからこそのキャスティングであり、そのギャップをどれだけ見せられるかが勝負だ。

 3人目は稲垣吾郎である。三谷幸喜監督『笑の大学』(2004年)や三池崇史監督『十三人の刺客』(2010年)、また今年春のドラマ『不機嫌な果実』(テレビ朝日系)などが印象に残る。いずれも、いわゆる主演ではないものの、しっかりと存在感を示していた。

 中でも、『十三人の刺客』が強烈だった。稲垣は役所広司たち刺客の敵であり、悪役である将軍の弟。この“狂気の人”を、想像以上の迫力で見事に演じていたのだ。今後も、稲垣の持ち味を生かせる役柄であれば、主役・脇役を問わず出演すべきだと思う。

 また同時に、ブックバラエティ『ゴロウ・デラックス』(TBS系)で見せる、実に自然体なMCがとても魅力的だ。今月放送された、みうらじゅんと宮藤官九郎がゲストの前後編でも、これだけ個性の強い面々を相手に、自分を見失わず、しかも自分の性癖さえ適度にはさみみ込みながらトークを展開していた。これは立派な才能であり、今後はもっと活用すべきだ。