中国は紛争の解決案について当事国としか交渉しないと主張し、アメリカの介入を批判・阻止してきた。それはルールの制定や交渉の主導権がアメリカ側に渡ることを心配しているからである。一方、当事国側はアメリカが中国に働きかけ、公正平等な秩序をつくってもらおうとアメリカの介入を強く希望している。

 たしかに、仲裁裁判所が下した裁定に強制力はないが、判決が出た以上、やはり中国に常にマイナスのイメージがつきまとう。国際舞台でのリーダシップをとりにくくなるし、欧米からは「仲裁裁判所の裁定を守れ」と要求される。実際、2016年9月のG20において、オバマ大統領は習近平主席との米中首脳会談で仲裁裁判所の裁定受諾を迫ったとされる。

中国・杭州で開かれたG20サミッ=2016年9月
中国・杭州で開かれたG20サミッ=2016年9月

ASEANの切り崩しに動く中国


 こうした懸念から、中国はこれまでも、ASEAN(東南アジア諸国連合)各国が南シナ海問題で一致団結することを恐れ、切り崩し工作を進めてきた。

 実際、関係各国は対策がばらばらで、必ずしも思惑が一致しているわけではない。カンボジア、ラオス、ミャンマーのような親中派と、フィリピン、ベトナム、マレーシアなどの反中派、そしてシンガポールやタイなどの中間派に分かれている。さらに、反中派の国でも中国とは緊密な経済関係にあり、徹底的に対抗することには躊躇があり、常に態度が変わったりしている。

 そのうえ、自国も南シナ海で埋め立てや空港建設、施設軍事化を進めているので、立場が曖昧だ。

 こうした背景が、アメリカの対中外交を弱めている一因だといわれてきた。2015年11月4日にマレーシアのクアラルンプール近郊でASEAN拡大国防相会議が開かれたが、南シナ海問題をめぐって混乱し、共同宣言の採択には至らなかった。続いて11月23日にASEAN首脳会議が開かれ、議長声明を発表した。南シナ海問題に関し「軍事プレゼンスの強化やさらなる軍事拠点化の可能性について、複数の首脳が示した懸念を共有する」と明記したものの、紛争場所を特定せず曖昧な表現にとどまっていた。

 2016年2月17日にアメリカ・カリフォルニア州パームスプリングス近郊で開かれたアメリカとASEANの首脳会議では、南シナ海情勢を念頭に「航行と飛行の自由」「紛争の平和的解決」などを盛り込んだ共同声明が発表されたが、相変わらず紛争場所は特定しなかった。